アフガン 中村哲医師殺害事件から2年。中村はタリバンをどう見ていたのか【中田考】
いまなぜ「タリバンの復権」なのか? 世界再編の台風の目になるのか?
■中村医師殺害事件について
中村医師殺害事件に関しては朝日新聞の乗京記者がアフガニスタンで綿密な現地取材を行い、タリバン復権直前の2021年6月8日から15日まで8回にわたって詳細な記事《「実行犯の「遺言」 ~中村哲さん殺害事件を追う~」》を連載していた。乗京はTTP(パキスタン・タリバン運動)のメンバーであったアミール・ナワズ・メス―ドが中村医師殺害事件の実行犯であると目星をつけて取材を続けていた。
ところが取材中に、アミールが住宅街で襲撃事件を起こし警備員に射殺されてしまった。乗京記者は2月10日付の朝日新聞に「中村哲さん殺害、捜査当局が主犯格を特定 死亡の可能性」の記事を書き、アフガニスタンやパキスタンの新聞も報道した。しかしアフガニスタン政府(アシュラフ・ガニー政権)当局は結局その件に関してコメントを出さず、乗京記者も取材を拒否された(第4回《「アミールが死んだ」 野放しだった容疑者、沈黙の当局》6月11日付)。アフガニスタン治安当局が事件の隠蔽をはかったため、取材は暗礁に乗り上げていた。
しかしタリバンが8月15日にカブールを奪還し、アフガニスタン全土の実効支配を確立すると乗京はアフガニスタンを再訪し、《殺害は予見されていた 中村哲さん事件を追う》と題してその取材結果を11月29日から12月2日まで4回にわたって記事に纏めている。
乗京によると、中村医師殺害事件では旧アフガニスタン政権当局が一度も会見を開かず情報を伏せたまま、捜査に関わった当局者の多くが国外に脱出してしまった。殺害現場のジャララバードは当時、タリバンではなく旧政権の支配下にあり、旧政権の治安当局はパキスタン政府による中村医師の殺害計画を察知していながら、事件を防げず、アーミルが犯人であったことが判明した死亡後も事件について取材を拒否していた。(第3回《中村哲さんに近づく危険、警察は深刻に捉えなかった 元高官が告白》12月1日付)
タリバンがカーブルを掌握した後も捜査資料は見つかっていない。しかし乗京は、中村医師殺害事件に対しタリバンとたびたび会っていた外交筋さえタリバンが中村医師の業績をいつも賞賛し感謝していたことを知っており、旧政権治安当局が都合の悪い捜査資料を持ち去ったか抹消した可能性に触れていながら、タリバンとTTPが厳格なイスラーム法の適用を求める友好団体である、という理由からタリバンが操作を放置するのではないか、との懸念を表明して新連載を終えている(第4回《尻込みするタリバン、友好団体との関係苦慮「ナカムラに申し訳ない」》12月2日付)。
復権後のタリバンについての日本の報道が、アフガニスタンの現代史の勉強もせず、ろくに取材もしないままに、アフガニスタンを破綻国家させタリバンの復権を招いた国際機関の主張や欧米の報道を無批判に焼き直しただけのタリバンに対する誤解を増幅させるだけの有害無益なものばかりであるのに対し(※6)、乗京の記事は、周到な事前調査と現地での様々な立場の人間との徹底した取材に基づく読み応えのあるものである。政治的な立場や利害を度外視して真実を追求し、誰にも忖度せずそれを伝えることはジャーナリストの職業倫理であり、その点において乗京の計12回の連載記事は国際的な水準に照らしても優れたレポートである。
しかしこの記事はアフガニスタンの現状認識が決定的に書けており、結果的に中村医師の志に添うものになっているかについても、以下の二つの理由から疑問である。
注)
※6 数少ない例外がTBSの須賀川記者の現地レポートで、アフガニスタンでのタリバン支配を実際に見る以前のタリバン報道官とのインタビューはstereotypeの偏見に基づくものだったが(https://youtu.be/LRA7Ji9CAEE)、アフガニスタンでの取材後の動画は概してアフガニスタンの現実をバランスよく伝えており、視るに値する。
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