日本でもイスラーム世界の理解が深かった時代【中田考×内田樹対談:質疑応答編】
■女性の教育はタリバン政権でどうなるか
質問者4:私は以前、青年海外協力隊としてモロッコの小学校、中学校、高校で仕事をさせていただいたことがあります。私が働いていた当時のモロッコは、初等教育~中等教育では男女同じように勉強するのが普通になりつつありました。今回、タリバンが政権を始めるにあたって、教育や女性の問題がどうなっていくか、何が期待されるのかに非常に関心を持っています。
中田:本当は初等教育は男女とも一緒です。何歳から区別するかはイスラーム法でも議論のあるところですが、「第二次性徴があった時点で分ける」という考えが基本です。最大限を取ると17~18歳になりますが、普通は標準で考えますから、少なくとも中学校からは分かれるというのが標準的です。
まだタリバンからはっきりと「何歳から分けろ」という命令は出ていないはずですが、基本的にはこのように分けていくと思います。教育について現状の問題は、「資格のある先生の頭数が確保できていないので教えられない」ことです。資格を備えた先生は一朝一夕には養成できませんから、何年かはかかる課題だと思います。
ですから食糧も含めた話ですが、外国がお金を出して支援しないとより時間がかかります。内田先生との対談(※対談前編、後編)にも関連しますが、初等教育から中等教育はアウトソーシングできませんから。助けられるのはダリ―語(ペルシャ語)ができるイランとパシュトゥー語ができるパシュトゥーン人がいるパキスタンだけです。お金を出すだけならともかく、この手の話に西洋人が絡むとろくなことにならないので。ただしシーア派のイランの場合は宗派が違うので、教育に関しては難しいところがありますね。
質問者5:中村先生のような方が草の根で活躍されて、市井の人々は日本人に対してポジティブな印象を持っているのかと想像するのですが、日本の国はどのように見られているのでしょうか?
日本は、思想的には欧米に近く、アメリカと親密な関係の国である一方で、地理的にはアジアの極東にあり中国に近いわけですから、「日本」という国がアフガニスタンの人たちからどのように見えているのか、興味があります。
中田:はっきり言ってしまえば、残念ながら知られていません。べつにアフガニスタンに限らず、アメリカ人だって日本についてどれだけ知っているか疑問で、日本は世界の中では、日本人が思っているほど知られていません。知られているものは、今は圧倒的にアニメですよね。
私が留学していた頃だと、日本は「もの」で知られていたわけです。ウォークマンのような日本の良い製品で、日本人に会ったことがない人にも知られていました。そして今はどこに行っても、中東でもヨーロッパでもアジアでも、「日本を知っている」というのはサブカル、中でもアニメを知っている人で、実態は知られていません。
内田:日本とアフガニスタンには、例えば貿易はあるんですか?
中田:いや、アフガニスタンには何もありませんから(笑)。
内田:アフガニスタンの主な輸出品は麻薬で、「アフガン産の上物が手に入って」みたいな話もあったりしますね。
中田:あとはラピス・ラズリという青い宝石がアフガニスタンの特産品ですが、それぐらいですよね。農産物の生産量は確かに大きいですが、周りのパキスタンとかイランとかでも作っていますから、わざわざアフガニスタンから日本まで持ってくることはないですから。
内田:日本にはアフガニスタン製のものはなくて、向こうもアニメで知っているだけということですね。
中田:そう、アニメだけですね。
内田:か細い糸の繋がりですね。