Scene.12 さぁ、先へ行こう!
高円寺文庫センター物語⑫
「京子っぺ! やめるってよ・・・・
緊急ミーティング、4丁目カフェに行くぞぉ!」
文庫センタースタッフのなかで、1年もない在籍ながら強烈な個性を放ったキャラはそうそういなかった。
バイトの欠員ができたら、「バイト募集」の貼り紙をするだけで10人近くが殺到した。待ちきれずにか、電話や直接来店してバイトしたいって直談判はどれほどあったことか。
そんな異能が、また羽ばたこうとする。
「店長、みなさん、すいません! 自分探しの旅がしたくって・・・・
そしたら、伊香保温泉で住み込みの仲居さんがあったの! 勝手ばっか言ってごめんなさい、戻ってきたらシフトなんでも入らせて下さい!」
「店長、よかねぇ~よかばい!」
「店長、私も応援したい!」
「店長、京子さんは凄いと思います!」
「自分探しとは、聞きなれないけど。旅はいい、ボクも18で九州一周のヒッチハイクもしたしなぁ・・・・いろいろ経験してこいよ。京子っぺの魂は、まだまだ彷徨ってるのか?!」
「店長、ごめんなさい! いろいろ教えて貰ったのに、なんの恩返しもできないで」
「恩返しか? ならな、伊香保の体験を刺激的に伝えてくれよ。まだまだ、旅の途中でかまわないからさ」
確かな目標を持って、本屋のバイトに加わる若者たち。その一方で、有り余るエネルギーを、どのように昇華して良いのか模索と漂流の中にいる若者たち。
そんな魂を持った連中がバイト、圧倒される日々は40代半ばになっても教えられることばかりだった。
「いらっしゃぁいって、ちょっと空気を読んでなかった?」
「あ、シェフ! いいのいいの、お騒がせでごめんなさい」
「それよかさ、文庫センターに看板ついたんだね」
「気がついてくれた! 外壁に映えるようにブルーの下地、店名の文字の背後は本になっていて黄色と黒は鬼太郎のチャンチャンコみたいでいいでしょ?!」
「お友達の岡本工芸のデザインよ、いいでしょう」
っと、りえ蔵が突っ込んできた。
「タイガースカラーとも違うけん、ちなみにオレは近鉄バファローズファン! イェイ♪野茂! 店長、わかっとると」
「今夜は、大将で飲もうってことね」
「こんにちは、店長。先日はコミッカーズ・イラスト展をありがとうございました。
これ、またみなさんで召し上がってください」
「とんでもない、田中さん。美術出版社さんには感謝ですよ! またまた差し入れまで」
「お菓子は、りえさんとか喜んでくれるじゃないですか。
ところで店長、携帯をいじってなにされていたんですか?」
「いやほら、双葉社さんの『ケータイ着メロ ドレミBOOK』ね。業界的に100万部突破も軽いって評判じゃないですか。
さすがに世間様並みに売れているんで、お客様の問い合わせ対応用にやってみてたんですよ・・・・ビートルズのAnd I Love Herを、ボクでもできるかって?! 」
「携帯の着メロに、自分の好きな音楽をその本から出来るって凄いですよね!」
「若い子は手入力も簡単でしょうけどね、着メロを手入力で作るって大変ですよ・・・・双葉社さんが、これで潤ってくれたら嬉しいなぁ~書泉の争議中には、双葉社労働組合のみなさんにとっても助けられたから!」
「内山くん、やったな!」
「男は、やるときはやるばい」
イベントの交渉事も任せてみれば、こなしてしまう! スタッフの戦力強化は、即実戦からだった。
数年後に大ブレイクする方のイベントが、さり気なく準備されていた。