「タリバンの復権」しかり、昨今世界中でメディアの未来予測が外れているのはなぜか?【中田考】
「隣町珈琲」中田考新刊記念&アフガン人道支援チャリティ講演(後編)
■地方を味方につけたタリバン
19世紀、ともかく西洋化・近代化しないことにはヨーロッパ人に支配されてしまうので何とかしようという動きが世界中でありました。日本も「脱亜入欧」により「富国強兵」をめざす、ということで、ヨーロッパの真似をして帝国主義列強の仲間入りを果たし、アジアの国を支配していきましたね。その時には当然、伝統派と欧化主義者の人間が対立することになります。
日本の場合はそもそも確たる国家のイデオロギーがなく、神道や仏教からも大きな抵抗はありませんでした。一方、イスラーム世界では植民地支配の下でも西欧化には強い抵抗があり、さらにそこに都市と農村の対立と絡んでいきました。第三世界で暮らしたことがある人はご存知でしょうが、第三世界はどこでも、都市部と農村部の貧富の差がものすごく大きい。ですからほとんどの国は首都の一極集中になり、ものすごい人口が首都に集まっています。
日本の都市と地方との差とは比べものになりません。「都市では車が走っているけれども、田舎ではまだ馬車が走ってる」「電気や水道が通っていない」といったことがごく普通です。
それはアフガニスタンでも同様です。アフガニスタンでも、西洋化を進めている人間がいて、それに対して自分たちの文化を守ろうとする人間がいる。
それに都市と地方の問題も絡んできます。西洋化するのは基本的にカブールなどの都市だけであって、田舎の人間は皆それぞれ発展に取り残されている。アフガニスタンでもこの二つの問題が重なっており、今回タリバンが政権を取ったこともその結果なのです。
アフガニスタンはこの50年間ずっと戦争をやってますから、全く産業がありません。わずかに農業があるだけです。その農業も、水が少なく井戸を掘ったり水を引いたりいろいろ手をかけなくてはいけないのですが、戦乱が続きそうしたシステムが壊れてしまったので、農業も難しくなっています。
2001年以降の親米政権は、20年間300兆円の援助を授かりながら、そのような都市と地方の貧富の差を拡げ、国を分裂させてしまいました。それがタリバンの勝利に繋がった一番大きな理由です。
元々タリバン政権は、アフガニスタンの南部~東部に強い勢力を持つパシュトゥーン人の政権です。国境で言えばパキスタンとの国境を抑えています。
ところが今回、タリバンはまず北西部、イラン~ウズベキスタン~タジキスタン、中国との国境から押さえていきました。要するに田舎、中央から一番遠いところから押さえていったのです。
「パシュトゥーン人の民族政権」ではなく、アフガニスタン全土の地方の農村部の人々の心を掴んだから、今回は成功したんです。
国境から押さえた理由はそれだけでなく、実務的にも外国との貿易を先に押さえてしまったわけです。さらに言うと、タリバンへの抵抗運動をしたくても国内だけだとできません。例えば少数民族であるハザーラ人が抵抗しようと思うと、同じシーア派の人口が多い隣国のイランに頼りますが、イランとの国境が押さえられてしまうとそこからの援助は来なくなります。タジク人が抵抗運動をしようと思っても、タジキスタンとの国境を押さえられてしまうとできないし、ウズベク人が抵抗しようとしてもウズベキスタンと国境を押さえられてしまうとできない。
ですからタリバンはまずそちらの国境を押さえようとしました。それが出来たということは要するに、田舎と都市、そして西欧化と地元の文化、という対立を理解して戦略を立てたことこそが、実はタリバンの勝利の原因だったのです。
それを分かっていて尚、西欧の無知につけこんで「我々少数民族の権利を」と主張している人たちは、これまでべつに少数民族のために戦ってきたわけでも何でもなく自分の利益のためだけに戦っていた、それぞれの少数民族の軍閥の指導者です。
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