2022年、日本人はマスクを外せるか? マスクは「感染対策」「道徳的ルール」を経て「人間関係の意思表示」となる!?【松野大介】
不良品を含むアベノマスクの廃棄に6000万円かかるというニュースに批判が上がった昨今。感染が激減した10月からもマスク生活が当たり前の暮らしが続いている。
コロナに関して主にメディアに対する論考を書く元芸人の作家・松野大介氏は「日本人は『オミクロン株の拡大』というコロナ感染とは関係なく、マスクは手放せなくなった」と日本人の心理をユニークな解説する。
■マスクの科学的効果
新型コロナウイルスの大きさは約0.1マイクロメートルという。1マイクロは1ミリの1000分の1。
一方、マスクの編み目の隙間は不織布からウレタン、布まで10マイクロから100マイクロメートルほど。性能が良いマスクでも新型コロナの100倍大きいので、新型コロナウイルスを蠅にたとえると、金網の隙間ほどのマスクの編み目は簡単に通り抜ける。
飛沫に関しては、昨年、世界一のスーパーコンピューター・富岳のシュミレーションで「20マイクロメートル以下の小さな飛沫に対する効果は限定的」との結論だった。が、テレビに流れた、口から飛び出す飛沫に色をつけた映像に、多くの人が衝撃を受けた。テレビは飛沫を感染理由に「マスクは絶大な効果」と喧伝。もちろん大きな飛沫をブロックするが、コロナウイルスは5マイクロ程度の飛沫に乗るというのでマスクを擦り抜けやすいことや、編み目から息と共に漏れることに関しては、テレビはほぼ触れなかった。
■マスクの意味の変化
日本よりコロナ感染死亡者数が桁違いに多い欧米の国では、マスク義務化に反対したり、反対のデモが行なわれた地域もあった。
被害の少ない日本は、世界でもっともマスク率が高いと言われる。
感染対策以外の理由を、私なりに考えた。
1. 決められたルールを従順に守る国民性。
2. もともとマスクに対する意識が欧米とは違う。
欧米は言語がアルファベットか、英語圏でなくてもアルファベットのような文字の組み合わせの国が多い。発音が重要な言語だと、話を聞く際には相手の口元を見ることがある(日本の外国語番組も昔は口元のアップが多かった)。
比べて日本の五十音は「こ」なら読み方は「こ」のみ、前後の平仮名がなんであれ「こ」以外の発音はないので、口元に注目する必要はない。
逆に日本は「話す時は相手の目を見なさい」という礼儀的教育が成される。サングラスなんか掛けて目上と話すな、と言う。シチュエーションによりサングラスをとらないのは相手に失礼だ。
しかし欧米は野外で日光がまぶしければサングラスを掛けたまま親や上司ともトークする。国ごとの目元と口元の価値観が、マスクへの抵抗の強さ・弱さに関連していると思う。
3. 日本人はわりとマスク好き
高度成長期からバブル期は風邪を引いた人だけがアベノマスクのような幅の狭いマスクをしたが、90~2000年代から冬になれば風邪でなくても外では幅の広いマスクをするサラリーマンやOLが増えた。
この理由にはいくつかある。
A. 風邪を移されたくない。
B. 顔を見られたくない(女性は出勤時のノーメイク顔を隠す場合も)。
C. 他人と関り合いたくない。例えば満員電車や駅で喧嘩やスリ等のトラブルが発生しても自分は関係ないと関わらずに通り過ぎることに抵抗が薄れる。
2010年代にはマスク幅を拡げて目の下から顎まで隠し、前髪を眉毛まで垂らしたおばさんなど、目しか出していない大人も珍しくなくなった。
こじつけると個人主義という言葉がはびこる時代から、電車・スーパー・図書館など公共の場で、主に大勢がいる中で一人でいる場合には他人を遮断するアイテムとしてマスクの用途は広がった。逆に職場や娯楽施設や知ってる者同士の時は外す。
マスクによる日本人的「他人と関わりたくない」行動は、コロナ禍で拡大した。もともと日本人が持っていた意識がコロナ禍で顕在化されたと言える。
マスクに対する意識とマスクの役割の変化を、わかりやすく時系列にします。