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ひきこもりに「恋愛」はできない?

現在観測 第22回

◆女性は結婚すればどうにかなる、ということはない

一方、女性当事者の場合、男性に比べると相手から話かけられる立場になることが多く、相手のリードに乗っかっていくことによって恋愛関係にもつながりやすい傾向があるようだ。自助会などに出かけると、大体どこでも女性の数のほうが少ないため、それだけ機会にも恵まれることになる。

しかし、女性は女性なりに深い悩みがある。ある女性当事者は、自らの恋愛体験を振り返り、「そこまでして仲を育んでいく価値が、その男にあるのだろうかと思うと、実感できなかった」と明かす。また、「あの人いいな」と思えたことが、自分の中でもまだこんな一面があったのかとうれしくて舞い上がってしまい、結果的に関係をこじらせたとも分析する。

「当時は自分も落ち込んでいる状態だったので、どうやったら恋愛できるんだろうと思っていて。そもそも、恋愛からは距離を置こうという気持ちになっていたんです」

そんな自分の恋愛できないコンプレックスを母親に相談すると、「こういう自分がつらいときに惚れてくれる男こそが本物だよ」と言われ、ここで出会った男性が本物なんだと思い直すように自分を説得した。

しかし、デートしてみても、まったく楽しくないし、相手は悪い人ではないから、断るのも申し訳ない。どうしてもしんどくなってきて、ある日、デートしている時間がもったいないと思うようになった。たった1ヵ月の恋だった。

「自分の気持ちも乗らないのに、焦る気持ちだけで出かけても、ろくなことない。“若いんだから、失敗をどんどんすればいい”とよくアドバイスされます。でも、失敗がイヤというのではない。つい恋愛している時間が惜しいと思ってしまったのです」

 

さらに、恋愛から発展して結婚まで経験したが、ひきこもり状態になってしまった別の女性当事者は、こんな話をする。

「恋愛と結婚はまったく違う。女性は、恋愛のゴールだと思って結婚するけど、世界が違う。結婚すると、夫や家族と服従関係ができる。そこでは、すべての自分の人格を捨てられて、仮初めの形を演じ続けるのが結婚だったんです。そのことに気づいた人が、私のように壊れるのです」

◆「恋愛」の位置づけ

ひきこもっている人々が「恋愛」することによって、ひとつの回復のきっかけになると言う人もいる。また、恋愛する子どもの姿を見て、「ああ“ひきこもり”が治った」などと口にする親や支援者もいる。

しかし、元気になったから恋愛すると限られたわけでもないし、そもそも失恋にショックを受けたり、相手に傷つけられたりして、ひきこもりに陥る人も少なくない。

「恋愛」という事象がプラスにもマイナスにも左右する。冒頭に挙げたように、まったく「恋愛」と無関係な存在であると考えられるのは、違う。

いま「ひきこもり」している人たちだって、みんなと同じように悩み苦しむ1人の人間であって、普通に「恋をする」ということなのである。

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池上 正樹

いけがみ まさき

フリージャーナリスト

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~プロフィール~

1962年、神奈川県生まれ。通信社勤務を経て、フリーのジャーナリストに。97年からひきこもり問題について取材を重ね、当事者のサポート活動も行っている。

おもな著書に『ダメダメな人生を変えたいM君と生活保護』(ポプラ新書)、『ドキュメント ひきこもり』(宝島社新書)、『大人のひきこもり』(講談社新書)、『痴漢「冤罪裁判」』(小学館文庫)、『あのとき、大川小学校で何が起きたのか』(青志社)などがある。現在、ダイヤモンドオンラインにて「「引きこもり」するオトナたち」を連載中。



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