明日は我が身の時代。「社会という荒野を生きる」とは何か【宮台真司】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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明日は我が身の時代。「社会という荒野を生きる」とは何か【宮台真司】

「社会という荒野を生きる。」その真実と極意〈連載第1回〉

 

■社会という荒野で共同体を守る

 

 拡がる〈感情の劣化〉は既に一部で意識されるようになり、個別には対処も進んでいる。最もよく知られるのが2010年から拡がった初期利用者層のフェイスブック離れだ。同じ頃から日本でも私塾やシェアハウスをインターネットから見えなくする動きが拡大してきた。

 共通するのが、インターネットを劣化空間と見做して切り離すことでコミュニティを保全する構えだ。これらは謂わば「社会を荒野と見做して共同体存続を図る試み」だ。米国開拓者にとっては野生が荒野だったが、野生が後景化し、社会が荒野として浮上している。

「社会を荒野と見做して共同体の存続を図る試み」を長らく「風の谷」戦略と呼んできた。むろん宮崎駿監督『風の谷のナウシカ』(1984年)に由来する。本書のタイトルは、そうした「風の谷」戦略を採用せずには、もはや共同体の存続を図れなくなった今日的状況を指す。

 

■感情劣化厨はまず国家に飛びつく

 

 共同体をインターネットから見えなくする動きを〈見えないコミュニティ化〉と呼ぶが、これには問題があることを書き添えておかねばならぬ。〈見えないコミュニティ化〉は選別&排除のシステムで、しかも排除されている当事者には排除されている事実が分からない。

〈感情の劣化〉ゆえに〈見えないコミュニティ〉に所属できない者は、インターネットの劣化空間に類するものしか知らない。すると主観的な社会イメージが劣悪になるから、自らの営みも荒(すさ)みがちで、〈感情の劣化〉が加速する。これは悪循環だからどんどん昂進(こうしん)する。

 こうして社会は、〈見えないコミュニティ〉に属する者と、インターネットの劣化空間しか知らない者とに分断されていく。だが福音書を持ち出すまでもなく、ヒトが救われるべきヒトとそうでないヒトを選別する社会は、長くは続かない。どうすればよいのだろうか。

 この数年そのことばかり考えてきた。その私が、ラジオ番組(※TBSラジオ『荒川強啓デイ・キャッチ!』)の10分間コーナー(「デイキャッチャーズ・ボイス」※2019年3月に終了)で喋ったことを加筆修正して纏めたのが本書(社会という荒野を生きる。)だ。

 修身斉家治国平天下(しゅうしんせいかちこくへいてんか)ではないが〈感情の劣化〉を被った者はまず国家に飛びつくという特性を示す。その特性を意識しつつ全体をお読み戴きたい。というのは、そうした輩こそが国家を滅ぼすという命題が、本書(『社会という荒野を生きる。』)の通奏低音だからである。

 

文:宮台真司

(※次回記事からは書籍『社会という荒野を生きる。』から抜粋連載して、つづく)

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CONTENTS

はじめに◉「社会という荒野を生きる。」とは何か

第一章◉なぜ安倍政権の暴走は止まらないのか

    ——対米ケツ舐め路線と愚昧な歴史観

◉天皇皇后両陛下がパラオ訪問に際し、安倍総理に伝えたかったこと

◉安倍総理が語る「国際協調主義に基づく積極的平和主義」の意味とは

◉戦後70年「安倍談話」に通じる中曽根元総理の無知蒙昧ぶりとは

◉盛り上がった安保法制反対デモと、議会制民主主義のゆくえ

◉安保法案の強行採決に見られる日本の民主主義の問題点とは

第二章◉脆弱になっていく国家・日本の構造とは

    ———感情が劣化したクソ保守とクソ左翼の大罪

◉なぜ三島由紀夫は愛国教育を徹底的に否定したのか

◉「沖縄本土復帰」の本当の常識と「沖縄基地問題」の本質とは

◉大震災後の復興過程で露わになった日本社会の「排除の構造」とは

◉除染土処理の「中間貯蔵施設」建設計画はすでに破綻している!? 

◉なぜ自民党はテレ朝・NHKの放送番組に突然介入してきたのか

◉憲法学の大家・奥平康弘先生から学んだ「憲法とは何か」について

◉広島・長崎原爆投下から70年と川内原発再稼働の偶然性とは

第三章◉空洞化する社会で人はどこへ行くのか

    ———中間集団の消失と承認欲求のゆくえ

◉ISILのような非合法テロ組織に、なぜ世界中から人が集まるのか

◉ドローン少年の逮捕とネット配信に夢中になる人たちの欲望とは

◉元少年Aの手記『絶歌』の出版はいったい何が問題なのか

◉地下鉄サリン事件から20年。1995年が暗示していたこととは

◉「お猿のシャーロット騒動」と日本のインチキ忖度社会とは

◉戦後日本を代表する思想家・鶴見俊輔氏が残したものとは何か

第四章◉「明日は我が身」の時代を生き残るために

    ———性愛、仕事、教育で何を守り、何を捨てるのか

◉なぜ日本では夫婦のセックスレスが増加し続けているのか

◉労働者を使い尽くすブラック企業はなぜなくならないのか

◉「仕事よりプライベート優先」の新入社員が増えたのはなぜか

◉「すべての女性が輝く社会づくり」は政府の暇つぶし政策なのか

◉ISILの処刑映像をあなたは子供に見せられますか

◉青山学院大学学園祭の「ヘビメタ禁止」騒動は何が問題だったのか

◉「ベビーカーでの電車内乗車」に、なぜ女性は男性より厳しい目を向けるのか

以上「目次」より

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宮台 真司

みやだい しんじ

社会学者

1959年宮城県生まれ。社会学者。映画批評家。首都大学東京教授。公共政策プラットフォーム研究評議員。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。社会学博士。1995年からTBSラジオ『荒川強啓 デイ・キャッチ!』の金曜コメンテーターを務める。社会学的知見をもとに、ニュースや事件を読み解き、解説する内容が好評を得ている。主な著書に『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』『日本の難点』(幻冬舎)、『14歳からの社会学』(世界文化社、ちくま文庫)、『正義から享楽へ 映画は近代の幻を暴く』(bluePrint)、『子育て指南書 ウンコのおじさん』(共著、ジャパンマシニスト社)、『どうすれば愛しあえるの 幸せな性愛のヒント』(二村ヒトシとの共著、KKベストセラーズ)、『社会という荒野を生きる。』(KKベストセラーズ)、『崩壊を加速させよ 「社会」が沈んで「世界」が浮上する』(bluePrint)、『大人のための「性教育」 (おそい・はやい・ひくい・たかい No.112) 』(共著、ジャパンマシニスト社)など著書多数。

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