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『感染の令和』と紅い女神【佐藤健志】

佐藤健志の「令和の真相」33

 

◆白い神、後見人となる!

 

 天使娘が生まれた敗戦直後は、「これからの世界では『国家』というものがなくなってゆき、地球全体が一つになる」という考え方が強かったのです。

 すると「国家を否定しつつ国を治める」ことこそ、新しい時代の先端を行く姿勢になる。

 

 そんな無防備なことでは、いつ襲われるか分かったものではない。若く愛らしいのだから、もっと気をつけたほうがいいのではないか?

 

 普通に考えれば、当然こうなるところ。

 しかし、そういう話にもなりませんでした。

 

 戦後の世界では、誰もが公正と信義を持って平和を愛し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようとするはずだと見なされたのです。

 要するに、世の中には善人しかいないらしいんですな。

 ならば世界各国の神々も、天使娘に優しくしてくれるはず。

 

 こんな考えは非現実的な夢想にすぎません。

 ところがよくしたもので、天使娘には「あしながおじさん」を思わせる庇護者がつきました。

 誰あろう、アメリカの白い神です。

 

 白い神も博愛精神に満ちていたわけではなく、自分の都合に合わせて天使娘を利用しようと思ってはいたのですが、親切に守ってくれたり、援助してくれたりしたのは確か。

「名もなき小さな神々に愛されてこそ天使娘だ、特定の強い神に依存などしていたら、囲われてしまうではないか」と反対する人々もいましたが、そこはそれ、寄らば大樹の陰。

 

 あらかじめ失われる運命にあった天使娘は、とりあえず身の安全を確保しました。

 白い神は、彼女の真の父かも知れない富国強兵を殺しているのですから、ここに倫理的な矛盾がひそむのは疑いえない。

 

 だとしても、「富国強兵は悪い神だった、あんなふうになってはいけない」という発想は、すでに国民的な合意となっている。

 だったら、それを殺した相手にすがって何が悪いのか。

 白い神への依存を批判する人々すら、「われわれが文句をつけるのは、天使娘の清純な理想について、誰よりも愛していればこそなのだ」と、彼女については決まってかばうのです。

 矛盾はウヤムヤのうちに隠蔽されました。

 

 けれども、当時の日本はまだ貧しい。

 これをどうにかしなければ、天使娘も女神として半人前。

 とはいえ、国家を否定したまま国を発展させるのはなかなかの難題です。

 

 この点はどう処理されたか?

 それは次回、お話ししましょう。

 

文:佐藤健志

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佐藤 健志

さとう けんじ

評論家・作家

 1966年、東京生まれ。東京大学教養学部卒業。

 1989年、戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』で、文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を当時の最年少で受賞。1990年、最初の単行本となる小説『チングー・韓国の友人』(新潮社)を刊行した。

 1992年の『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋)より、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。これは21世紀に入り、政治、経済、歴史、思想、文化などの多角的な切り口を融合した、戦後日本、さらには近代日本の本質をめぐる体系的探求へと成熟する。

 主著に『感染の令和』(KKベストセラーズ)、『平和主義は貧困への道』(同)、『右の売国、左の亡国 2020sファイナルカット』(経営科学出版)、『バラバラ殺人の文明論』(PHP研究所)、『夢見られた近代』(NTT出版)、『本格保守宣言』(新潮新書)、『僕たちは戦後史を知らない』(祥伝社)など。共著に『新自由主義と脱成長をもうやめる』(東洋経済新報社)、『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)、『国家のツジツマ』(VNC)、訳書に『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』(PHP研究所)、『コモン・センス 完全版』(同)がある。『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』は2020年、文庫版としてリニューアルされた(PHP文庫。解説=中野剛志氏)。

 2019年いらい、経営科学出版でオンライン講座を制作・配信。『痛快! 戦後ニッポンの正体』全3巻、『佐藤健志のニッポン崩壊の研究』全3巻、『佐藤健志の2025ニッポン終焉 新自由主義と主権喪失からの脱却』全3巻を経て、最新シリーズ『経世済民の作劇術』に至る。2021年〜2022年には、オンライン読書会『READ INTO GOLD〜黄金の知的体験』も同社により開催された。

 

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