国を滅ぼす「戦後の天使」【佐藤健志】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

国を滅ぼす「戦後の天使」【佐藤健志】

佐藤健志の「令和の真相」34

 

◆時代の根底には物語がある

 

 私の新刊感染の令和 または あらかじめ失われた日本へは、内政、外交、経済、社会、思想、そしてコロナと、さまざまな切り口を通じて、令和という時代の全貌を浮かび上がらせようとする評論集。

 ただし時代の根底には、つねに「歴史的経緯」「神話的基盤」があります。

 

 どんな社会も、何もないところからいきなり出現するわけではない。

 しかるべき過程を経て成立するのです。

 当の過程が、つまり歴史的経緯。

 

 他方、いかなる社会も「世の中はこうあるべきだ」「こうあってほしい」という人々の価値判断、ないし願望を踏まえて成立する。

 くだんの心情は、「こうすれば国は良くなる」「こうすれば豊かになる」という物語の形を取ります。

 当の物語こそ、すなわち神話的基盤。

 

 しかも歴史的経緯自体、ひとつの物語にほかなりません。

 歴史を意味する英語「ヒストリー」は、ギリシャ語「historia」を語源とするものの、この言葉は「物語」という語義も持つのです。

 時代の全貌を浮かび上がらせるとは、その根底にひそむ物語を浮き彫りにすることだと言えるでしょう。

 

『感染の令和』では、くだんの物語を象徴する存在として、「紅い女神」が登場します。

 戦後日本人が抱いた夢や理想を体現する、いわば戦後平和主義の化身。

 各セクションの扉では、彼女がさまざまな姿で現れ、みなさんを時代の深淵へと導くのです。

 

 だが、紅い女神自身の物語はどのようなものか?

 前回記事「『感染の令和』と紅い女神」」に続き、これをたどってゆきましょう。

 

 紅い女神は敗戦直後、清純可憐な「天使娘」として生まれました。

 戦前の日本を治めた神「富国強兵」が、アメリカの白い神によって滅ぼされたあと、新しく日本を治めるのが務めです。

 けれども彼女に求められたのは、国家を否定しながら国を治めること。

 

 普通に考えれば、これでは経世済民どころか、自分の身を守ることだっておぼつかない。

 新しい歴史を刻む前に終わってしまう、「あらかじめ失われた」存在になりかねません。

 

 ところがお立ち会い。

 なんとアメリカの白い神が、庇護者になってやろうと言い出すんですね。

 

 天使娘、これを受け入れました。

 要するに「パパ」を手に入れたのですが、先代の神・富国強兵を殺したのもこのパパ。

 つまり白い神への依存は、倫理的な矛盾をはらんでいたものの、それ以上に切実な問題があります。

 まだまだ貧しい日本をどうやって発展させるか。

 うら若い女神へと成長しつつあった天使娘は、ここで驚くべき機転を利かせます。

次のページ女神の成功とつまずき

KEYWORDS:

 

※上のPOP、カバー画像をクリックするとAmazonサイトにジャンプします

以下、佐藤健志著新刊『感染の令和   または あらかじめ失われた日本へ』の目次を公開。

◆佐藤健志の好評既刊も絶賛発売中◆

※上のカバー画像をクリックするとAmazonサイトにジャンプします

オススメ記事

佐藤 健志

さとう けんじ

評論家・作家

 1966年、東京生まれ。東京大学教養学部卒業。

 1989年、戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』で、文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を当時の最年少で受賞。1990年、最初の単行本となる小説『チングー・韓国の友人』(新潮社)を刊行した。

 1992年の『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋)より、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。これは21世紀に入り、政治、経済、歴史、思想、文化などの多角的な切り口を融合した、戦後日本、さらには近代日本の本質をめぐる体系的探求へと成熟する。

 主著に『感染の令和』(KKベストセラーズ)、『平和主義は貧困への道』(同)、『右の売国、左の亡国 2020sファイナルカット』(経営科学出版)、『バラバラ殺人の文明論』(PHP研究所)、『夢見られた近代』(NTT出版)、『本格保守宣言』(新潮新書)、『僕たちは戦後史を知らない』(祥伝社)など。共著に『新自由主義と脱成長をもうやめる』(東洋経済新報社)、『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)、『国家のツジツマ』(VNC)、訳書に『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』(PHP研究所)、『コモン・センス 完全版』(同)がある。『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』は2020年、文庫版としてリニューアルされた(PHP文庫。解説=中野剛志氏)。

 2019年いらい、経営科学出版でオンライン講座を制作・配信。『痛快! 戦後ニッポンの正体』全3巻、『佐藤健志のニッポン崩壊の研究』全3巻、『佐藤健志の2025ニッポン終焉 新自由主義と主権喪失からの脱却』全3巻を経て、最新シリーズ『経世済民の作劇術』に至る。2021年〜2022年には、オンライン読書会『READ INTO GOLD〜黄金の知的体験』も同社により開催された。

 

この著者の記事一覧

RELATED BOOKS -関連書籍-

感染の令和: またはあらかじめ失われた日本へ
感染の令和: またはあらかじめ失われた日本へ
  • 佐藤健志
  • 2021.12.22
平和主義は貧困への道 または対米従属の爽快な末路
平和主義は貧困への道 または対米従属の爽快な末路
  • 佐藤 健志
  • 2018.09.15
[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)
[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫)
  • エドマンド・バーク
  • 2020.12.02