国を滅ぼす「戦後の天使」【佐藤健志】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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国を滅ぼす「戦後の天使」【佐藤健志】

佐藤健志の「令和の真相」34

 

◆安らかな滅びか、現実への帰還か

 

 国家を否定したまま、一致団結もせず、国の繁栄を維持するのはさすがに不可能。

 21世紀に入ると、日本は徐々に衰退、多くの人々が貧しくなってゆきました。

 おまけに庇護者だったはずのアメリカの白い神(もっともこの頃になると、寄る年波のせいか、昔ほど白くなくなってきました)まで、「ずっと良くしてやったんだから少しは恩返しをしろ! 今度はお前がオレに尽くす番だ!」と、あれこれ要求してくるようになる。

 少女時代からの経緯もあって、強いことの言えない女神は、人々にウソをついてでもパパに貢がざるをえないところまで追い込まれます。

 

 彼女は長らく、自国が「あらかじめ失われた国」であることを巧みに封印してきたわけですが、いよいよ抑え込めなくなってきた。

 このままでは先細ってゆくだけ。

 国家の否定をやめて、もう一度、団結しないことには再生の道は拓けない。

 

 紅い女神は人々に呼びかけようとしました。

 ところが、どうでしょう。

 没落の恐怖に怯えた人々は、どうにか安心感を得ようとするあまり、現実に直面しようとしなくなっていたのです!

 

 自分にとって都合のいい形に現実認識をねじ曲げ、それに反する事実は受け入れようとしない。

 その結果、現実に対処できなくなると、現実認識をいっそう極端にねじ曲げてゆく。

 こうして立場の異なる人々の間では、議論すら成り立たなくなりました。

 前提となる認識がまるで噛み合わないせいです。

 

 一致団結など、それこそ夢物語。

 絶望した女神は、ある考えに取りつかれました。

 

 ここまできたら、人々が安らかに滅んでゆけるようにするのが、私の務めかも知れない。思えば国家を肯定するなんて、誰も求めやしなかった。日本再生をめざすつもりの人たちまで、戦後を全否定しろとか、もっとパパに身も心も捧げろとか言ってくる。

 みんな、「国家を否定したままでも国が栄える」という夢を見せてほしかっただけだったんだわ。しばらくはその夢を現実にしてあげられたけど、もうそれもおしまい。でも、夢と最後まで添い遂げたいのなら、願いを叶えることはできる。きっと令和は、土壇場だからこそすべてが許される時代なのよ。

 

 女神の背後に、無数のピンクの玉が浮かんでいるのにご注目。

 あれは現実に直面できなくなった人々のために、彼女が用意した「安らかな滅びの夢」なのです。

 

 玉の正体は、薄められた日の丸。

 ありえない日本再生の幻影です。

 一種のウイルスで、空気感染する。

 感染すると思考能力が衰える一方、何とも言えない多幸感をおぼえます。

 きっとすべてがうまく行く、そう思いながら意識がぼんやりしてくる次第。

 

 清純可憐だった「戦後の天使」は、こうして国を滅ぼそうとするにいたりました。

 死神と化した彼女が、幻影を解き放つことを思いとどまるかどうか。

 それはあなたが『感染の令和 または あらかじめ失われた日本へ』をご覧になって、現実への帰還を果たせるかどうかにかかっているのです。

 

 次回は本の内容について、より具体的にご紹介しましょう。

 

文:佐藤健志

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以下、佐藤健志著新刊『感染の令和   または あらかじめ失われた日本へ』の目次を公開。

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佐藤 健志

さとう けんじ

評論家・作家

 1966年、東京生まれ。東京大学教養学部卒業。

 1989年、戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』で、文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を当時の最年少で受賞。1990年、最初の単行本となる小説『チングー・韓国の友人』(新潮社)を刊行した。

 1992年の『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋)より、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。これは21世紀に入り、政治、経済、歴史、思想、文化などの多角的な切り口を融合した、戦後日本、さらには近代日本の本質をめぐる体系的探求へと成熟する。

 主著に『感染の令和』(KKベストセラーズ)、『平和主義は貧困への道』(同)、『右の売国、左の亡国 2020sファイナルカット』(経営科学出版)、『バラバラ殺人の文明論』(PHP研究所)、『夢見られた近代』(NTT出版)、『本格保守宣言』(新潮新書)、『僕たちは戦後史を知らない』(祥伝社)など。共著に『新自由主義と脱成長をもうやめる』(東洋経済新報社)、『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)、『国家のツジツマ』(VNC)、訳書に『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』(PHP研究所)、『コモン・センス 完全版』(同)がある。『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』は2020年、文庫版としてリニューアルされた(PHP文庫。解説=中野剛志氏)。

 2019年いらい、経営科学出版でオンライン講座を制作・配信。『痛快! 戦後ニッポンの正体』全3巻、『佐藤健志のニッポン崩壊の研究』全3巻、『佐藤健志の2025ニッポン終焉 新自由主義と主権喪失からの脱却』全3巻を経て、最新シリーズ『経世済民の作劇術』に至る。2021年〜2022年には、オンライン読書会『READ INTO GOLD〜黄金の知的体験』も同社により開催された。

 

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