「仕事よりプライベート優先」の新入社員が増えたのはなぜか〈前編〉【宮台真司】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「仕事よりプライベート優先」の新入社員が増えたのはなぜか〈前編〉【宮台真司】

「社会という荒野を生きる。」その真実と極意〈連載第3回〉

■表層の戯れに終始する男女関係

 

 実はそこが危うい。今の若い人たちは、仕事の外側に、家族などのホームベースを作る力が著しく弱まっています。以前もお話しした性的退却がこれに関係します。18歳以上の未婚男女の交際率(恋人がいる割合)がいちばん高かったのは1992年です[社会保障・人口問題研究所]。

 若者の性体験率が最高だったのは男子は1999年(大学63%、高校26%)、女子は2005年(大学61 %、高校30%)です。しかし最近(2011年)は男子(大学54%、高校15%)も女子(大学46%、高校24%)も激減[日本性教育協会による2011年第7回「青少年の性行動全国調査」参照]。大学生男子は9ポイント減、大学生女子は15ポイント減です。

 これらは目に見える性的退却ですが、問題はこれに留まらず、もっと深いところにもあります。交際相手がいる場合も、相手の心の中に深く入ることをしないことです。深く入ると、自分と相手の間に共通性がないことがバレるので、深く入らず、LINEに象徴される戯れを永久に続けるのです。

 アラン・チューリング[1912~1954、イギリスの数学者、コンピュータ科学者]がコンピュータの性能を調べるために、隔離された部屋にある「何か」と対話し、「何か」がコンピュータか人か区別できるかという「チューリング・テスト」を考えました。LINEでの戯れはコンピュータが相手でもできる。ならば相手は入替可能な部品に過ぎない。

 LINEに限りません。若い人のスマホでのメッセージのやりとりの大半は、相手が人間じゃなくても大丈夫。LINEのやりとり程度ならコンピュータ(チャット・ロボット)でも扮技できます。コンピュータ云々を横に置けば、相手が「その人」じゃなくても大丈夫ということ。深さがないのですね。

 こうした深さのない言語的戯れの延長線上で、若い人の多くはセックスし、「つき合ってる」という話になります。相手の内面に入り込んで「相手の心に映ったものを自分の心に映す」ことをせず、「見たいものだけを見て、見たくないものを見ない」。そこに相手の唯一性はありません。

 そうしたつき合いなら、相手のオーラに反応できないし、相手の本気度を評価することもできません。相手が別の人と浮気していても気づかないでしょう。これが過去2年間のワークショップなどで見出した若い人たちの、標準的な性愛関係です。これで「つき合っている」と言えるのか?

 浅い友達関係ならそれでもいい。でも彼氏彼女とか親友とかの関係で、それはないでしょう。相手がどこの誰でも務まる、会話とすら言えない言語的やりとりが延々続き、その延長上で、何を深いところで共有しているか分からない相手を、「恋人です」などと称する。馬鹿じゃないのか。

 そんなんじゃ、揺るぎない家族なんて永久に作れないよ。家族でなくてもホームベースなんて無理。EU統計によれば、育休を取らない男ほど40歳代以上になるとモチベーションが続かない。ホームベースを作れないと、40歳代以上になったら仕事の意欲も失われるんです。

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CONTENTS

はじめに◉「社会という荒野を生きる。」とは何か

第一章◉なぜ安倍政権の暴走は止まらないのか

    ——対米ケツ舐め路線と愚昧な歴史観

◉天皇皇后両陛下がパラオ訪問に際し、安倍総理に伝えたかったこと

◉安倍総理が語る「国際協調主義に基づく積極的平和主義」の意味とは

◉戦後70年「安倍談話」に通じる中曽根元総理の無知蒙昧ぶりとは

◉盛り上がった安保法制反対デモと、議会制民主主義のゆくえ

◉安保法案の強行採決に見られる日本の民主主義の問題点とは

第二章◉脆弱になっていく国家・日本の構造とは

    ———感情が劣化したクソ保守とクソ左翼の大罪

◉なぜ三島由紀夫は愛国教育を徹底的に否定したのか

◉「沖縄本土復帰」の本当の常識と「沖縄基地問題」の本質とは

◉大震災後の復興過程で露わになった日本社会の「排除の構造」とは

◉除染土処理の「中間貯蔵施設」建設計画はすでに破綻している!? 

◉なぜ自民党はテレ朝・NHKの放送番組に突然介入してきたのか

◉憲法学の大家・奥平康弘先生から学んだ「憲法とは何か」について

◉広島・長崎原爆投下から70年と川内原発再稼働の偶然性とは

第三章◉空洞化する社会で人はどこへ行くのか

    ———中間集団の消失と承認欲求のゆくえ

◉ISILのような非合法テロ組織に、なぜ世界中から人が集まるのか

◉ドローン少年の逮捕とネット配信に夢中になる人たちの欲望とは

◉元少年Aの手記『絶歌』の出版はいったい何が問題なのか

◉地下鉄サリン事件から20年。1995年が暗示していたこととは

◉「お猿のシャーロット騒動」と日本のインチキ忖度社会とは

◉戦後日本を代表する思想家・鶴見俊輔氏が残したものとは何か

第四章◉「明日は我が身」の時代を生き残るために

    ———性愛、仕事、教育で何を守り、何を捨てるのか

◉なぜ日本では夫婦のセックスレスが増加し続けているのか

◉労働者を使い尽くすブラック企業はなぜなくならないのか

◉「仕事よりプライベート優先」の新入社員が増えたのはなぜか

◉「すべての女性が輝く社会づくり」は政府の暇つぶし政策なのか

◉ISILの処刑映像をあなたは子供に見せられますか

◉青山学院大学学園祭の「ヘビメタ禁止」騒動は何が問題だったのか

◉「ベビーカーでの電車内乗車」に、なぜ女性は男性より厳しい目を向けるのか

以上「目次」より

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宮台 真司

みやだい しんじ

社会学者

1959年宮城県生まれ。社会学者。映画批評家。首都大学東京教授。公共政策プラットフォーム研究評議員。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。社会学博士。1995年からTBSラジオ『荒川強啓 デイ・キャッチ!』の金曜コメンテーターを務める。社会学的知見をもとに、ニュースや事件を読み解き、解説する内容が好評を得ている。主な著書に『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』『日本の難点』(幻冬舎)、『14歳からの社会学』(世界文化社、ちくま文庫)、『正義から享楽へ 映画は近代の幻を暴く』(bluePrint)、『子育て指南書 ウンコのおじさん』(共著、ジャパンマシニスト社)、『どうすれば愛しあえるの 幸せな性愛のヒント』(二村ヒトシとの共著、KKベストセラーズ)、『社会という荒野を生きる。』(KKベストセラーズ)、『崩壊を加速させよ 「社会」が沈んで「世界」が浮上する』(bluePrint)、『大人のための「性教育」 (おそい・はやい・ひくい・たかい No.112) 』(共著、ジャパンマシニスト社)など著書多数。

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