「仕事よりプライベート優先」の新入社員が増えたのはなぜか〈前編〉【宮台真司】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「仕事よりプライベート優先」の新入社員が増えたのはなぜか〈前編〉【宮台真司】

「社会という荒野を生きる。」その真実と極意〈連載第3回〉

 

■性的に過剰であることはイタイ

 

 なぜこうした深い関係からの退却が進むのか。歴史を80年代に遡ります。性教育研究会の調査によれば、若い男女(高校・大学)の性体験率は80年代に倍増します。特に女子が著しく、男子の性体験率を抜きます。その結果、80年代半ばに、目に見えない性的退却が進みました。

 79年に創刊された雑誌に『マイバースデイ』と『ムー』があります。最初は恋愛おまじない雑誌『マイバースデイ』が人気で、〈性に乗り出せないという悩み〉を抱えた子が読みました。それが86年を転機に『ムー』人気にシフトし、〈性に乗り出したがゆえの空虚〉が前景化します。

 86年の人気ナンバーワンアイドル岡田有希子の自殺事件を機に、『ムー』のお便り欄で前世の名前を名乗って少女たちが仲間を募り、岡田有希子と同じ方法で一緒に飛び降り自殺するブームが起こりました。あまりに連続したので、若年者自殺の統計的特異点を形成しました。

 巷では30歳以上離れた男との恋に破れたことが取り沙汰されていました。でも当時ナンパで出会った若い女子の多くは、容姿にも才能にも恵まれたアイドルが30歳以上離れた男へと向かわざるをえなかった「性愛の不毛」に感応していました。〈性に乗り出したがゆえの空虚〉です。

 僕はかかる性的退却についてのリサーチを2000年にZ会の名簿を使ってやりました。両親は愛し合っていると思う大学生とそうでない大学生に分けると、前者は、交際率が高いが経験人数は少なく、後者は、交際率は低いが経験人数が多い、という対照的な結果になりました。

 こうした〈性に乗り出したがゆえの空虚〉は、88年以降のお立ち台ディスコブームや素人AV出演ブームや読者ヌードブームなど、一連の〈男の視線を経由しない性愛の戯れ〉の隆盛を招きます。実は、その延長線上に、93年以降のブルセラ&援交のブームがありました。

 ブルセラ&援交を93年に発見した際、こうした流れを知る僕は「とうとうそうなっちゃったわけか」という感じで、少しも驚きませんでした。ちなみにこの発見を『朝日新聞』に書いたら僕の元に取材が殺到し、数百人の女子高生ネットワークをマスコミに繋げたらすべてのチャンネルが援交でもちきり。援交ブームになりました。

 マスコミ熱を背景にフォロワーが参入すると、援交が〈自己提示ツール〉から〈自傷ツール〉に変じました。折しも95年秋からは「エヴァンゲリオン」ブームと共振してAC(アダルトチルドレン)ブームになります。援交する子は自傷系の代名詞みたいになっていきました。

 それで援交などの性的過剰はカッコ悪いとのイメージが拡がる。結果〈援交第一世代〉が退却して〈援交第二世代〉に交替すると、カッコいいリーダー層の子が援交から退却します。ちなみに、96年のピーク時に高校生だったか、それ以降高校生になったかで世代を分けます。

 リーダー層の子は援交から離脱して「ガングロ化」します。ガングロには〈男たちの視線を遮断する機能〉がありました。新参のフォロワー層を象徴するのが「白ギャル」。ガングロたちは「ウチらはもうやらないよ。今やってるのはあそこにいるみたいな白ギャル」と指さしました。

 かかる次第で、ガングロ化に並行して〈性的に過剰であることはイタイ〉との意識が拡大しました。リーダー層はストリートから退却し、24時間出入り自由な友達の部屋に屯(たむろ)する〈お部屋族化〉しました。女子における〈性的な過剰を忌避する営み〉の出発点がここにあります。

(※書籍『社会という荒野を生きる。』から抜粋連載。第4回の後編につづく…)

 

文:宮台真司

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CONTENTS

はじめに◉「社会という荒野を生きる。」とは何か

第一章◉なぜ安倍政権の暴走は止まらないのか

    ——対米ケツ舐め路線と愚昧な歴史観

◉天皇皇后両陛下がパラオ訪問に際し、安倍総理に伝えたかったこと

◉安倍総理が語る「国際協調主義に基づく積極的平和主義」の意味とは

◉戦後70年「安倍談話」に通じる中曽根元総理の無知蒙昧ぶりとは

◉盛り上がった安保法制反対デモと、議会制民主主義のゆくえ

◉安保法案の強行採決に見られる日本の民主主義の問題点とは

第二章◉脆弱になっていく国家・日本の構造とは

    ———感情が劣化したクソ保守とクソ左翼の大罪

◉なぜ三島由紀夫は愛国教育を徹底的に否定したのか

◉「沖縄本土復帰」の本当の常識と「沖縄基地問題」の本質とは

◉大震災後の復興過程で露わになった日本社会の「排除の構造」とは

◉除染土処理の「中間貯蔵施設」建設計画はすでに破綻している!? 

◉なぜ自民党はテレ朝・NHKの放送番組に突然介入してきたのか

◉憲法学の大家・奥平康弘先生から学んだ「憲法とは何か」について

◉広島・長崎原爆投下から70年と川内原発再稼働の偶然性とは

第三章◉空洞化する社会で人はどこへ行くのか

    ———中間集団の消失と承認欲求のゆくえ

◉ISILのような非合法テロ組織に、なぜ世界中から人が集まるのか

◉ドローン少年の逮捕とネット配信に夢中になる人たちの欲望とは

◉元少年Aの手記『絶歌』の出版はいったい何が問題なのか

◉地下鉄サリン事件から20年。1995年が暗示していたこととは

◉「お猿のシャーロット騒動」と日本のインチキ忖度社会とは

◉戦後日本を代表する思想家・鶴見俊輔氏が残したものとは何か

第四章◉「明日は我が身」の時代を生き残るために

    ———性愛、仕事、教育で何を守り、何を捨てるのか

◉なぜ日本では夫婦のセックスレスが増加し続けているのか

◉労働者を使い尽くすブラック企業はなぜなくならないのか

◉「仕事よりプライベート優先」の新入社員が増えたのはなぜか

◉「すべての女性が輝く社会づくり」は政府の暇つぶし政策なのか

◉ISILの処刑映像をあなたは子供に見せられますか

◉青山学院大学学園祭の「ヘビメタ禁止」騒動は何が問題だったのか

◉「ベビーカーでの電車内乗車」に、なぜ女性は男性より厳しい目を向けるのか

以上「目次」より

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宮台 真司

みやだい しんじ

社会学者

1959年宮城県生まれ。社会学者。映画批評家。首都大学東京教授。公共政策プラットフォーム研究評議員。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。社会学博士。1995年からTBSラジオ『荒川強啓 デイ・キャッチ!』の金曜コメンテーターを務める。社会学的知見をもとに、ニュースや事件を読み解き、解説する内容が好評を得ている。主な著書に『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』『日本の難点』(幻冬舎)、『14歳からの社会学』(世界文化社、ちくま文庫)、『正義から享楽へ 映画は近代の幻を暴く』(bluePrint)、『子育て指南書 ウンコのおじさん』(共著、ジャパンマシニスト社)、『どうすれば愛しあえるの 幸せな性愛のヒント』(二村ヒトシとの共著、KKベストセラーズ)、『社会という荒野を生きる。』(KKベストセラーズ)、『崩壊を加速させよ 「社会」が沈んで「世界」が浮上する』(bluePrint)、『大人のための「性教育」 (おそい・はやい・ひくい・たかい No.112) 』(共著、ジャパンマシニスト社)など著書多数。

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