「仕事よりプライベート優先」の会社員が増えたのはなぜか〈後編〉【宮台真司】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「仕事よりプライベート優先」の会社員が増えたのはなぜか〈後編〉【宮台真司】

「社会という荒野を生きる。」その真実と極意〈連載第4回〉

■国家形成と家族形成と変性意識

 

 近代化とはマックス・ウェーバーによれば「計算可能性の上昇をもたらす形式的手続きの一般化」のこと。ところが民族ロマン主義も性愛ロマン主義も「戦争」や「苦難」に象徴される〈変性意識状態〉[日常的な意識状態以外の意識状態のこと]を不可欠とします。〈変性意識状態〉は計算不能だから、近代化にとって実は異物です。

 別の言葉で言うと、近代化の核である計算可能性の上昇は、言語の概念的使用を不可欠とします。ところが、性愛も愛郷心も、言語の概念的使用に収まらない感情の作用です。ヒトが4万年前まで言語を使えなかったという長い歴史に関連するものです。

 とはいえ、そうした〈変性意識状態〉を媒介項とした国民国家形成や家族形成があって初めて、資本主義的市場経済(を支える法形成や、感情的回復を含めた労働力再生産)が持続してきた。今のところ、国民国家抜きの資本主義も、家族抜きの資本主義も、可能性がありません。

 少子化対策として行政や民間がマッチングサービスを提供していますが、表層の戯れしか知らぬ者たちは、家族を持続可能には営めません。自己啓発の一環としてのナンパ講座が流行っていますが、セックスを通じて絆を作ることができない輩はセックスしてもそれで終了です。

 どうすれは良いか。問題の本質は、幾つかの方向から述べたように「社会に適応すると、性愛が不全になり、ホームベースが作れなくなる」こと。であれば、「社会に適応するのをやめ、適応するフリで留めることなしには、性愛不全から脱却できない」ということになります。

「流動性が高く多元的で複雑な社会に適応するには、過剰さによるノイズを持ち込まないために、相手に深くコミットしない」をベタに実践したらダメ。社会に適応する「フリ」だけでいい。そもそも社会はクソ。クソな社会に適応しきったら、頭の中もクソになっちゃうぜ。

 実際、若い人は頭の中がクソになっちゃって、表層的なメッセージのやりとりで意味のない戯れを続け、性愛から見放されてるじゃないか。そういうことはやめて、社会に対する適応は「ほどほど」にする。繰り返すと、表層的な戯れの中で、充実したプライベート空間なんて作れないよ。

 だから、「仕事はほどほど」っていうのはいいんですが、「仕事はほどほど」の後に何をしているんだよ?ってことです。プライベートを重視するのではなく、プライベート空間でホームベースを重視しろってことです。専(もっぱ)らそこに注意を集中しないと、一人寂しく死にます。それでいいのか。

(後編おわり)

(※書籍『社会という荒野を生きる。』から抜粋連載。第5回につづく…)

 

文:宮台真司

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CONTENTS

はじめに◉「社会という荒野を生きる。」とは何か

第一章◉なぜ安倍政権の暴走は止まらないのか

    ——対米ケツ舐め路線と愚昧な歴史観

◉天皇皇后両陛下がパラオ訪問に際し、安倍総理に伝えたかったこと

◉安倍総理が語る「国際協調主義に基づく積極的平和主義」の意味とは

◉戦後70年「安倍談話」に通じる中曽根元総理の無知蒙昧ぶりとは

◉盛り上がった安保法制反対デモと、議会制民主主義のゆくえ

◉安保法案の強行採決に見られる日本の民主主義の問題点とは

第二章◉脆弱になっていく国家・日本の構造とは

    ———感情が劣化したクソ保守とクソ左翼の大罪

◉なぜ三島由紀夫は愛国教育を徹底的に否定したのか

◉「沖縄本土復帰」の本当の常識と「沖縄基地問題」の本質とは

◉大震災後の復興過程で露わになった日本社会の「排除の構造」とは

◉除染土処理の「中間貯蔵施設」建設計画はすでに破綻している!? 

◉なぜ自民党はテレ朝・NHKの放送番組に突然介入してきたのか

◉憲法学の大家・奥平康弘先生から学んだ「憲法とは何か」について

◉広島・長崎原爆投下から70年と川内原発再稼働の偶然性とは

第三章◉空洞化する社会で人はどこへ行くのか

    ———中間集団の消失と承認欲求のゆくえ

◉ISILのような非合法テロ組織に、なぜ世界中から人が集まるのか

◉ドローン少年の逮捕とネット配信に夢中になる人たちの欲望とは

◉元少年Aの手記『絶歌』の出版はいったい何が問題なのか

◉地下鉄サリン事件から20年。1995年が暗示していたこととは

◉「お猿のシャーロット騒動」と日本のインチキ忖度社会とは

◉戦後日本を代表する思想家・鶴見俊輔氏が残したものとは何か

第四章◉「明日は我が身」の時代を生き残るために

    ———性愛、仕事、教育で何を守り、何を捨てるのか

◉なぜ日本では夫婦のセックスレスが増加し続けているのか

◉労働者を使い尽くすブラック企業はなぜなくならないのか

◉「仕事よりプライベート優先」の新入社員が増えたのはなぜか

◉「すべての女性が輝く社会づくり」は政府の暇つぶし政策なのか

◉ISILの処刑映像をあなたは子供に見せられますか

◉青山学院大学学園祭の「ヘビメタ禁止」騒動は何が問題だったのか

◉「ベビーカーでの電車内乗車」に、なぜ女性は男性より厳しい目を向けるのか

以上「目次」より

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宮台 真司

みやだい しんじ

社会学者

1959年宮城県生まれ。社会学者。映画批評家。首都大学東京教授。公共政策プラットフォーム研究評議員。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。社会学博士。1995年からTBSラジオ『荒川強啓 デイ・キャッチ!』の金曜コメンテーターを務める。社会学的知見をもとに、ニュースや事件を読み解き、解説する内容が好評を得ている。主な著書に『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』『日本の難点』(幻冬舎)、『14歳からの社会学』(世界文化社、ちくま文庫)、『正義から享楽へ 映画は近代の幻を暴く』(bluePrint)、『子育て指南書 ウンコのおじさん』(共著、ジャパンマシニスト社)、『どうすれば愛しあえるの 幸せな性愛のヒント』(二村ヒトシとの共著、KKベストセラーズ)、『社会という荒野を生きる。』(KKベストセラーズ)、『崩壊を加速させよ 「社会」が沈んで「世界」が浮上する』(bluePrint)、『大人のための「性教育」 (おそい・はやい・ひくい・たかい No.112) 』(共著、ジャパンマシニスト社)など著書多数。

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