「イスラーム世界の価値観や行動原理は西欧的なものと全く異なっている」とまず認識せよ【中田考×平川克美】
「隣町珈琲」中田考新刊記念&アフガン人道支援チャリティ講演〈平川克美氏との特別対談〉
アフガニスタンでは今、第二次タリバン政権が発足し始動しているにもかかわらず、国際社会はタリバン政権を国際テロリスト指定し、経済制裁をいまだかけ続けている。食糧危機は深刻さを増し、子どもたちの餓死者が出ているのがアフガニスタンの現状だ。いまベストセラーの『タリバン 復権の真実』(KKベストセラーズ)の著者でイスラーム法学者の中田考氏が、実業家で文筆家の平川克美氏と、平川氏が主催する「隣町珈琲」で対談を行った。「イスラーム世界の価値観とはどういったものなのか?」。前回配信した講演記事(前編・後編)と合わせてお読みください。
平川:『タリバン 復権の真実』を拝読して、やっぱりタリバン、もしくはイスラームの世界は、我々が慣れ親しんだ西欧的な原理とは全く行動原理が異なることに改めて気づかされたんですが、その原理の違いは一体どこからきたのか、ということに興味があります。
1600年の東インド会社設立以降、一気にヨーロッパがアジア・アフリカに進出して植民地にしていきました。当時、かつてヨーロッパの中心だったイタリアのすぐ東側にはオスマン帝国という大きなイスラーム帝国があったわけですが、植民地の競争の歴史に目立った形で登場していませんね。
以前に中田先生とお話しした際にその理由として、「『株式会社』という幻想、想像の共同体をイスラームは持たないからだ」と聞いて僕は膝を打ったんです。
そして「領域国民国家」も、(ベネディクト・アンダーソンが書いた通り)実は「想像の共同体」そのもの、つまり人間が作り上げた共同体なわけです。
その歴史を辿ってみると1648年のウェストファリア条約に遡り、それ以降の世界は「ウェストファリア体制」と呼ばれています。これはカトリックとプロテスタントの争いに端を発した「三十年戦争」がヨーロッパであり、それに疲れてしまって作り上げた体制です。「国民国家」という概念は、この時にようやくできたものです。
ですから、「幻想にすぎない国民国家」に対して、「神との直接の対話を基底にするイスラーム」というのが大本の違いだと思うのですが、その辺り中田先生はどうお考えでしょうか。
中田:イスラーム世界でも欧米の植民地化の影響は大きく、今ご指摘いただいたイスラームの精神のかなりの部分が崩れてるのは確かです。しかし、真面目にイスラームを学び直そうとする人たちは皆、その現状に当然気が付いています。
またイスラームは親族を非常に大切にしていまして、その伝統も戻りつつあります。イスラーム世界は多民族なので、親戚も国境を越えていますし、学問をする人間も放浪しながら勉強するシステムですから、学問のネットワークも国境を越えています。ヨーロッパの影響を強く受けたのは事実ですが、国境を越えたネットワークによってイスラームの文化が戻りつつあるのも事実です。
平川:なるほど。先生が仰った親族・家族システムとは、想像の共同体ではなくて血縁共同体を基礎にしているものですよね。
エマニュエル・トッドが、イスラームはいわゆる内婚制の共同体家族形態の社会であり、日本はいわゆる権威主義的家族、そして現在の世界を席巻する価値観の源流であるヨーロッパは絶対核家族のシステムだと区分けをしています。
一方でアフガニスタンの場合、イスラームであると同時に、特に北部などは物凄い部族社会ですよね。
中田:そうですね。
平川:トッドはチュニジアの「ジャスミン革命」を評して、「SNSによって戦いが起きた、みたいなことが言われているけれど、そうではない。本質は、あの地域に残っていた部族的な家族システム、血縁共同体がヨーロッパ文明の侵入により崩れていき、子供が親の言うことを聞かなくなるように旧来の価値観への反発が急速に起こったことが、あのような形に繋がっていった」と言っています。これについてはどうお考えですか?
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