食卓の「もったいない!」から「鮮度、旨味長持ち」安心安全への挑戦——住友ベークライト「真空スキンパック」 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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食卓の「もったいない!」から「鮮度、旨味長持ち」安心安全への挑戦——住友ベークライト「真空スキンパック」

【THE PIONEER〜開拓者たち〜】


 イノベーションとは、科学技術の粋を集めた文明の利器(蒸気機関、自動車、・・・スマホetc.)など時代の「ハイテク技術(機器)」をイメージする方も多くいるだろう。しかし、これらの技術が、誰の、何のためにあるものなのか、またそれによってどのように私たちの社会に「新しい価値」をもたらすのか、という明確なビジョンと実践が行われた時、その技術は私たちの「生活革命をもたらす新常識」となるのではないだろうか。では、そうした新たな常識を作り出すイノベーションとは、何から生まれるのか——間違いなく、開発する人間たちの「情熱」からだろう。「もったいない!」から「鮮度、旨味長持ち」できる食品包装技術に取り組んだ住友ベークライト社の開拓者たちを追った。


■食品ロス問題は「消費期限延長」で解決できるのではないか!

食品の鮮度と旨味を逃さず消費期限を延長できる真空スキンパックは「中身を守る」フィルム包装に定評のある知識と技術から生まれた。

 有限の資源をいかに大切にするか。今、世界では、地球をとりまく社会課題として食品ロス対策の取り組みが求められている。その対策とは、まず、温室効果ガス排出による地球温暖化への環境改善対策として、次に食品ロスを産み出す商品サイクルにおける不効率の経済対策としてである。後者はとくに家計の問題として身近に考えられている方も多いのではないだろうか。

 日本国内に目を向ければ、食品ロスは具体的にどのくらいあるのか。年間570万トン。国民一人当たりにつき年間約45キロを廃棄していることになる。さらに事業系食品ロスは309万トン。実に54%が食べられることなく終わっている(「総務省人口推計(2019年10月1日)令和元年度食料需給表(確定値)」)。

「もったいない! を解決するために何ができるのか?」という問題意識を持ち、まず生産者、供給側から食品の消費期限を延ばすことはできるのではないかとか考え続けた会社員がいる。住友ベークライト社執行役員でフィルム・シート営業本部長の田中厚氏だ。同社は、私たちが普段、錠剤の薬を飲むときに成形されたポケットを押して薬を取り出すPTP包装(プッシュ・スルー・パッケージ)のシートを日本で初めて製造したことでも有名である。それがなぜ、いま、食品だったのだろう?

「私たちの事業部は『中身を守る』というところに来歴のルーツがあります。具体的には水蒸気を通さない高機能フィルムによって、患者さんの安全と安心に応えるため、お薬の品質を守る技術を進化させてまいりました。今、世界の共通課題になっている食品ロス削減はSDGs目標12「つくる責任とつかう責任」として取り上げられています。「中身を守る」ことの結果が「食品ロス削減」であり、これは食料資源を無駄にさせてはならないということだけでなく、廃棄処理のために発生するCO2の削減につながり社会課題の解決につながると気づきました」(住友ベークライト社・田中氏)

 その端緒となったものが住友ベークライト社の機能性バリアフィルムの技術だったという。では、その技術とは具体的にいったいどのようなものなのだろうか。食肉の保存の観点から見ていこう。

■新たな技術で「おいしさキープ」食肉の消費期限が4倍強に!

住友ベークライト株式会社 執行役員 フィルム・シート営業本部 本部長 田中厚氏

 例えば、スーパーの精肉コーナーと聞いて私たちがイメージするものは、白い発砲スチロールのトレイの上にラップで包装された真っ赤なお肉。そのお肉を店頭で購入し、冷蔵庫に入れると2〜3日で消費期限が過ぎてしまい、廃棄してしまう経験もお持ちではないだろうか。こうした家庭系の食品ロスは、総計の46%にあたる年間261万トン(前出・「総務省人口推計」)にもおよぶ。

「例えば、日本人の常識として真っ赤なお肉が新鮮だと思いますよね。でも、お肉は、酸素に触れることによって酸化が進み傷みはじめている兆候なんです。いかに中身を酸化させずに包装するかが大切なのです。私たちがまず取り組んだのは内容物にシワなく追従可能な真空スキンパック包装(下図参照)だったのです」(住友ベークライト社・田中氏)

スキンパック包装とは、従来の真空包装と異なり、内容物の形状に密着させながら真空状態をにすることができる技術である。

 

追従性」とは、例えば商品の形状に沿って隙間なく密着できる性質を意味し、従来の真空包装の技術では完全な追従性を実現できなかったといわれる。精肉を包装する場合は、従来の真空包装ではしわが出来て追従性に問題があったと田中氏は語る。

図のトレイ包装、従来の真空包装とスキンパックの消費期限の違いは、カビの発生やドリップの濁りなど、酸化がもたらすものだとわかる。

 

 上図は、国産牛のサーロイン肉を使用した実験結果であるが、通常のトレイ包装と比較して消費期限が4倍強も延長できることがわかり、22日目でもドリップ(肉の内部から分離してこぼれる液体)も出ていない。

「つまり、22日間もの消費期限内で美味しく食べられると同時に、この真空パックによって熟成してさらに旨味成分が増していくということもわかりました。これによって例えば、従来の和牛の冷凍輸送からチルド輸送も可能となり、新鮮で美味しいお肉を国内、海外でも提供することができるようにもなるのです。」(住友ベークライト社・田中氏)

 食品廃棄問題の取り組みだけでなく、新たに積極的なブランドも仕掛けていけることをも実証できる住友ベークライト社のスキンパックの技術は、そもそもどのように生まれたのだろうか。その開発の秘密に迫る。

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