食卓の「もったいない!」から「鮮度、旨味長持ち」安心安全への挑戦——住友ベークライト「真空スキンパック」
【THE PIONEER〜開拓者たち〜】
■10年来の社会貢献への夢と仲間たちとの出会い
「従来の私たちの技術では、完全な追従性が完成されていませんでした。まずは原料を追従性の高いアイオノマー(金属イオンによる凝集力を利用し高分子を凝集体とした合成樹脂)に変えることで追従性は一段とよくなりました。更には弊社(当社)の差別化技術である「架橋技術」の効果で真空状態にさせる状態がより進化したといえます(下図参照)」(住友ベークライト社・田中氏)
「架橋」とは、主に高分子化学においてポリマー同士を網目みたいにつなぎ、連結し、物理的、化学的性質を変化させる反応のこと。架橋により網目構造持たせたフィルムがゴムのような特性を生み出し、スキンパックの場合、加熱、冷却プロセスにおいて、伸び縮みする追従性を高められたというわけである。これでぴったりと真空状態が可能となったという。
「特許もとり、公開しておりますが、この技術がスキンパックの強みだと言えると思います。しかし、この機能性バリアフィルム技術は、食品の酸化を防ぎ、消費期限延長という社会貢献できるのにもかかわらず、なぜ使われないのかと問題意識を持ちました。そして日本において最も貢献できると思われる分野が精肉でしたので、そこを開拓したいと考えたのです」(住友ベークライト社・田中氏)
今から10年前、田中氏は、まだ高追従性のアイオノマーという原料に出会う前に「ドリップ」問題を解決できずに、精肉の真空パック化計画を断念した過去があった。しかし、田中氏の貢献したいという情熱は、通じたのである。原料メーカーとフィルムメーカーである自分たちと、それを製品化できる包装機メーカー(東京食品機械株式会社)と出会い、時間をかけ議論を戦わしながら、住友ベークライト社が製品化にこぎつけたのが、いまである。
現在、着実に流通業界において大手スーパーや多くの小売店なども、食品ロス問題と真剣に向き合いはじめ、とくに精肉におけるスキンパック採用の輪が広がりはじめている。その原点が、田中氏をはじめとする住友ベークライト社の社員たちの熱い思いと飽くなき人間の挑戦のなかにあった。
■生活時間革命——真空スキンパックで見えた「新しい常識」
イノベーションとは「生活革命をもたらす新たな価値創造」だとすれば、「スキンパック包装」の技術によってどんな価値が生まれるのだろうか。もちろん、前章までで述べた「鮮度よし、旨味よし」という消費期限の延長による食品ロスの削減もあるだろう。その視点をさらに食卓まで下げた時に実感できる喜びとはなんだろう。
一言で言えば、それは、私たちにとって食生活における自由な時間的余裕と選択肢の幅の広さであろう。具体的には毎日の食卓がより計画的にコントロールを可能にし、好きな食材をより長いスケジュールのなかで選択できる自由を満喫できる価値である。
「やはり、生産者や、メーカー、流通業者の最終の顧客は、私たち自身も含めた消費者の皆さんです。例えば食肉を買い置きしても、トレイのラップ包装の約4倍もの消費期限が延長できることにより、選択肢は4倍以上にも広がる可能性があります。私たちの技術によって食材の品質を安全に、安心に保て、しかも皆さんに喜んでいただけるのであれば、こんなに嬉しいことはありません」(住友ベークライト社・田中氏)
食品ロスによる地球環境の保護、効率的な経済システムの再構築、そして顧客の満足を高めることができる住友ベークライト社の技術によって生み出される好循環の未来に見えるのは、人々の笑顔かもしれない。
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