「グラミン銀行」はボランティアにおける究極の答え
若者だって社会を動かせる 第4回
自己満足のためのボランティアはやりたくない
僕がここまでグラミン銀行に感銘を受けたのには理由がある。
足立区の公立中学校に通っていたころ、僕たちは「カンボジアに井戸を贈ろう」キャンペーンを立ち上げた。地域運動として、なんと3万本近くものアルミ缶を集め、カンボジアの村に井戸を寄贈したのだ。
このときの僕は、世界は確実に変えられるんだ、という思いでいっぱいだった。その四年後、高校生のときのカンボジアのスタディツアーで、偶然にも井戸を寄贈した村に寄ることができた。
勢いよく水を出した井戸と、その周りで戯れるたくさんの子どもたち。
そんな光景を期待した僕の前に広がっていたのは、涸れて、使われている形跡のないボロボロの井戸の名残だった。このときの気持ちはうまく言葉では言い表せない。ただ、それ以来「チャリティー」「ボランティア」に対する徹底的な懐疑心を持ち続けていた。
だが、グラミン銀行は違った。そこには、いままで疑問を持っていたチャリティーやボランティアに対する究極の答えがあるような気がした。
『グラミン銀行を知っていますか』は間違いなく、僕の人生を変えるインパクトを持っていた。この本を書いた人に会ってみたい。そう思ったときには、僕は坪井ひろみ先生の所属する秋田大学に電話をかけ、その日の夜行バスで秋田に向かっていた。
前日のアポにもかかわらず、僕を快く迎え入れてくれた坪井先生は、知的でありながら柔和さを備えた素敵な女性だ。その日は、きっとお忙しかったはずだが、なんと丸一日かけてグラミン銀行について教えてくださった。お話を聞いていると、坪井先生がこれまでの研究を通じて、いかに現地の女性たちの側に寄り添ってきたのかがわかった気がした。
形だけのボランティアやチャリティーではなく、本当に人々の役に立とうとすれば、自ずと現地の人たちの目線や考え方に寄り添うことが求められるのだ。
もう僕は居ても立ってもいられなくなっていた。
「先生! いますぐグラミン銀行をこの目で見に行きたいんです! お願いします、紹介状を書いていただけないでしょうか」
「私は以前、飛び込みで行きました。それでも、彼らはオープンだから受け入れてくれます。ご自分で、何をしたいのかしっかりメールで書いたほうが、その気持ちが伝わりますよ」
僕のグラミン銀行にかける思いは強かった。それでも、現地に行くからには自分の気持ちをしたためた手紙を、自分で書くことが大切なのかもしれない。
最後に、坪井先生には「現地の人々に寄り添ってね」という言葉をかけていただいた。もう僕は、カンボジアに涸れた井戸を贈りたくはない。自己満足のためのボランティアはやりたくない。現地の人々の立場で、現地の人々の役に立つことがやりたいんだ。坪井先生からいただいた「現地の人々に寄り添う」という言葉は、いまでも度々思い出しては口に出し、胸に刻みつけている。
<『若者が社会を動かすために』より抜粋>
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