アイデアはアイデアにすぎない
若者だって社会を動かせる 第5回
皆さんにはアイデアのインプリメンターになって欲しい
僕はアシル先生がディレクターを務めるGCCの日本人コーディネーターとして赴任することとなった。そこで僕が企画したのが、GCMP(グローバル・チェンジメーカーズ・プログラム)というプログラムだ。これは日本から20人の大学生をバングラデシュに呼んで、2週間のフィールドワークを通じてバングラデシュの課題解決のアイデアを考えるものだ。20名の大学生は数チームに分かれて村の病院や学校、市場を回る。
「この国には4万人も先生が足りていない」
「村の子どもたちに、大学まで行けるような力をつけてあげられない」
日本の大学生たちはさまざまな課題に対して、ICTを用いたソリューションを生み出そうとしていた。ところが、アイデアコンペの開催2日前に、ちょっとしたトラブルが起こる。アシル先生がコンペの中止を僕たちに伝えたのだ。
「はっきり言って、日本から来た学生が1週間でアイデアを考えましたってプレゼンされても。何十年とかけて本気でやっている人たちはどう感じると思いますか?」
この言葉はその通りだ。それでも、僕は日本の若い世代にバングラデシュの現状と、イノベーションの困難さを知ってもらいたかった。その場は、僕と三好が頭を下げることで、なんとかアイデアコンペの実施を取り付けてもらうことができた。
コンペ当日。
「農村の人々にブログを書いてもらってコミュニケーションを活性化する」「リキシャにソーラーパネルを取り付ける」「牛乳でシチューを作って販売する」といったアイデアの発表が終わると、アシル先生は立ち上がって言った。
「みなさんのアイデアはクリエイティブで素晴らしかった。では、みなさんに聞きたい。このアイデアを本当にわれわれと実践する気がある方はどのくらいいますか?」
自信なげに数人が手を挙げる。
「グラミン銀行には世界中からアイデアが集まってきます。でも、それを実行する人がいないんです。だからみなさんには、どうかインプリメンターになって欲しい」
アイデアはアイデアにすぎない。アシル先生が発するからこそ、この言葉には重みがあった。アシル先生はアイデアと実践との距離に向き合い続けてきた、まぎれもない実践者なのだ。
アイデアは実践されてこそ意味を持つ……アシル先生は僕に、そう教えてくれた。
<『若者が社会を動かすために』より抜粋>
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