Scene.19 本屋は奇々怪々の魑魅魍魎!
高円寺文庫センター物語⑲
「ゲゲゲ、見つかっちゃったか・・・・。
ボクは、まだワープロなんだけどね。パソコンは、アタマいいとこでりえ蔵に任せているのよ。いつかまぁ、文庫センターのホームページができればいいかなって」
「あ、そう言えば聞きましたよ。ゾマホンさんが、キャンペーンで来たのに右往左往していたんですって? 店長!」
「夜中のテレビ番組とかもチェックしているんだけど、ゾマホンさんは知らなかったんで焦った! ま、バイトくん達がカバーしてくれて誤魔化せちゃったけどさ」
「店長。ショーウィンドーに飾ってある『南天堂――松岡虎王麿の大正昭和』って、なんですか? めっちゃ、硬そうな本の感じですよね?」
「後藤さん。着眼点は最高!
大正時代に、一階は本屋で二階はカフェなんてオシャレな店があったのよ。大正時代ですよ!
腰巻きが高見順で『学生の私も、ダダイスト気取りで時折その南天堂の階段を昇った』って、言うのがドビンゴでさ。
大杉栄から辻潤、小野十三郎に菊田一夫やサトウハチローに今東光と、当時の文化人が集った本屋とその主の話なんて売るしかないでしょ」
「サトウハチローと今東光を知っているくらいで、後はちんぷんかんぷん。要は、文庫センターさんは文化人のサロンを目指しているんですか?」
「違うな。強いて言えば、サブカルの梁山泊」
「あ、またわかんないことを言って。しかし、そういう本を見つけてアッピールする本屋っていうのがいいですね!
いまどき人文書は特に売れないでしょう?」
「サブカルチャーの芯には、しっかり根付いた人文書を扱うベースがあるぜって言うのが基本的なコンセプトなのね。
それを公言したらヤボかなって、サブカルをウリにしているんだ」
「店長、書棚の隅々まで見ればわかりますって!
売れない人文書とか、嘆く前に如何に売る&見せる努力をするかですよね。その皓星社さんって、阿佐ヶ谷にあるんじゃないですか?」
「さすが、知っているね! 電話して、来て貰ったの。店のアーチ窓はボクらのアッピールスペースだから、これはって一冊をPRするのにいいでしょう」
「やっぱり、ルーエの店長が見て来いって言うだけありますね。それから店長、いまどき腰巻きじゃなくて帯って言いません?!」
「すいません、授業で必要なので教えていただけますか?
吉本タカアキの本を読めという課題なんです」
いま時はさ、お客さんのニーズに応えるのは本のソムリエとかって言うんだって(笑) 。そ、無理難題に応えるのが記憶頼りの本屋稼業だった。
吉本隆明は、ヨシモトリュウメイがボクら世代のコモンセンス。タカアキって言われたら、とんねるずでしょ!
「本屋さんね。子供に本を読ませたいの、どうしたらいいかしら?」
「そうですか。お宅様では、ご両親は本を読んでいます?」
「いやねぇ! マンガばっかりで本なんて読まないから、聞いているんじゃないの・・・・」
「なら、無理して読ませることないですよ。かえって、本嫌いになります!
無理して読ませて、万一でも本の魅力に憑りつかれてごらんなさい。本代に、お金は使う。読み過ぎて、眼は悪くなる。溜まった本で、部屋は片付かない。しまいには、いろいろ毒されてろくな考え持ちゃしませんよってボクみたいになる!
それにいま、マンガを読んでいるのならいいじゃないですか・・・・」
「店長。あんなこと、言っちゃっていいんですか?」
「聞いてたんか、クロちゃん。
読書っていうのはな、まず環境に習慣。家庭の日常に本があるか、友達とかに本好きがいたりするかなんだよ。
自分が、本を読みだした経緯って思い出してごらん」
「それは、マンガからです。いろいろ知りたくなって、本を読むようになりました」
「だろ。ボクだって、おなじだったもん。
さっきの親御さん、マンガをバカにしていたけどさ。自分だって、マンガを読んでいたはずじゃないの?!」
「そうっすよね、それを棚に上げて読書の強制って! 勉強しろって、ガミガミ言われて反発しちゃうのと一緒だと思います」
「ある時な。
箱入り単行本の小説を探しに来られたお客さんに、文庫版もございますって案内したら文庫は要らないって。
たまに出会うんだけど、本を知的なインテリアと思っている方々もいるんだぜ」
「マジっすか。ボクなんて、見られたくない本の方が多いです!」
「だろ。文庫センターじゃ、そういう本が目立っているもんな・・・・。」