Scene.19 本屋は奇々怪々の魑魅魍魎! |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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Scene.19 本屋は奇々怪々の魑魅魍魎!

高円寺文庫センター物語⑲

「なんだ、おめぇ~店長。こんな時間に、まだいるのか?!」

やだなぁ、よりによって木田さんが酔っぱらって来ちゃったよ。

「ご機嫌じゃないですか、忘年会シーズンですもんね。

バイトくん達も、年末はクニに帰ったりでシフトの穴埋めですよ。社長がラストに来てくれるまでです」

「知るか! おい店長、これを取ってくれ! マンディアルグのな『ボマルツォの怪物』ってんだ、河出文庫であると思うぜ」

「木田さん、ありますよ文庫棚に。

マンディアルグは『オートバイ』を読んでハマって、少しは揃えているんです」

「映画化の時はライダーズスーツがむっちりの、マリアンヌ・フェイスフルが色っぽかったな! ありゃ、おめ・・・・エロ映画だ」

「おっとっと。千鳥足でよろけて雑誌棚のガラスに倒れないで下さいね。

しばらく前にも、夜中に酔っぱらいが暴れて割られちゃったんですから」

「帰る! 来年も、頑張れ・・・・ばーか!」

「店長。お疲れさまの三乗ですね」

近所の出版社の編集さんが、こんな時間にやって来た。高円寺にお馴染みだった新興宗教の教祖にヴィジュアルが似過ぎているんだよな。

「普通に、お疲れさまと。夜まで、お疲れさまと。酔っぱらいの、お相手までお疲れさまで三乗です。

ボクは、地獄の年末進行なんですよ」

でしょうね。髪とヒゲは伸び放題、やや体臭の方も・・・・大変だな、編集者。

なんと創刊号です。内容をお見せできないのが残念ですが、個人的には・・・・ね(笑)

「いやあの、今夜ラッキーだったのは店長がいたので買える本があるから。

この『日曜官能家』は、妄想を掻き立てる極め付きのエロ本だと思うんです。話の分かる店長だけがいる時に買えたらと一年半、もう第2号3号と出ていますね」

「それね、飛び込み営業での仕入れなんですよ。睦月影郎、ソルボンヌK子、館淳一、下関マグロなどなどと、H系オンパレードで口絵写真は50人以上の弁天様御開帳でしょ!

10号まで持たないと思うので、買っといた方がいいですよ」

「『ハリーポッター』がありつつも、卑猥田橋の交差点な極上のエロスを置いているという闇が堪らない魅力の本屋なんですよね・・・・!」

 

高円寺の街の魅力には、喫茶店がある。

都内のいくつかの街で、安らぎのひと時を過ごせた思い出の中には必ず喫茶店があった。もちろん、美味い珈琲とその店の方々とともに・・・・。

珈琲の美味さを覚えた喫茶店。珈琲を教えてくれた喫茶店。そして、傍らにはいつも本と煙草。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
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のがわ かずお

1951年 東京生まれ。書泉を経て、高円寺文庫センター店長。その後、出版社のアートン・ゴマブックス・亜紀書房顧問。本屋B&B、西日本出版社などにかかわる。 温泉とプラモデルと映画を、こよなく愛する妖怪マニア。共著『現代子育て考5.男の子育て』(現代書館)、『独断批評』(第三書館)。


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