Scene.21 いいのか悪いのか、答えは風に吹かれている。 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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Scene.21 いいのか悪いのか、答えは風に吹かれている。

高円寺文庫センター物語㉑

「そう言えば店長、大正堂さんから電話があったプロの万引き二人組。うちに来た感じがないですね」

「来たとしても一瞥してさ、こんなにサブカルチャー傾向だと盗んでも転売できるか判断できなかったかもよ。

そうだな、ちょっと大正堂さんに報告してくるわ」

急ぐことでもないから、散歩がてら遠回りして行くとしよう。文庫センターの旧店舗から巡ってみようかなと、店を出て右に行けばすぐに床屋さん。理容師さんが何人もいて賑やかにやっているだけあって、高円寺在住の有名人やミュージシャンの常連さんが多いのは文庫センターと似ていた。

左折して早稲田通りへと向かうこの辺りは、あずま通り商店街。高円寺は、どこも道幅が狭く小さな店と個人宅が混在していた。どこからともなく、夕げの香りも漂ってくる。2000年とはいえ、昭和な趣きを残した商店街ばかりだった。

ラーメンブームから高円寺にもラーメン屋が増えてきていたが、行列もできない小さなラーメン屋の向いには、居心地のいいBar「ナジャ」があった。

名前からアンドレ・ブルトンの小説を想起するのだが、素敵なママさんに由来を聴き忘れてしまった。

その一階が中古レコード屋。高円寺には、こんなレコード屋に玩具屋プラモデル屋とボクにとっては危険地帯。映画館がなくて、よかった。

初めてこの通りを歩いた時に驚いたのは、大竹文庫という貸本屋さんがあったことだった。母校の小学校への通学路に貸本屋はあったが、それ以外には西池袋・川口・江戸川と住んで見かけたためしがない。高円寺は貸本屋が成り立つ街なんだと、感じ入ってしまった。

文庫センターが入っていたアパートが見えてきた。一階に三店舗、二階に三室という一般的な木造アパートの、一階右端に文庫センターはあった。ほとんどの時間を、ひとりで過ごしていたのだから思い出深い。ランチタイムのみ本店から応援があっただけで、たまにお腹を壊した時は辛かった!

元文庫センター。『伊香保通信』を飾った大型ショーウィンドーと、左には開きガラス戸がありました。

そのまま直進すれば、早稲田通りに出た左側に猫丸というお気に入りの喫茶店があった。ここでランチをしながら「高円寺通信」という、毎月の文庫情報を満載したコピー誌を手書きしていたのも懐かしい日々。

旧文庫センターお向かいのスナックと、はす向かいのお菓子屋さんに横手の金魚屋さん。ママさんも旦那さんも見えないので失礼して、路地に入って行けば住宅とアパートの密集地。

個人宅の表札には「リヤカー貸し〼」と、木札が下がるのは高円寺のなかでの引越し風情を物語っていた。

「若旦那さん! いますか、文庫センターです」

 

アタマの中には、ボブ・ディランの「風に吹かれて」が流れる。

Scene.21 いいのか悪いのか、答えは風に吹かれている。

 

「店長。見て、ホームページがここまで出来たの」

「わお! 凄いな、よく頑張ってくれたね。ボクにはチンプンカンプンなことが出来るって、素直に尊敬しちゃうよ」

「だって、誰もやりたがらなかったから。やるっきゃないでしょ!

スタート前に、ちゃんとチェックしてOKを下さいよ」

「いや、ありがと。これで、文庫センターも全国に情報発信・・・・・」

ガリガリ! グワッシャーン!

「わ! なんだ、この音は・・・・」

「店長さん! トラックがぶつかって、外壁にもたれかかっているわよ!」

「お花屋さん、ありがとうございます。許さん、とっちめてくる!」

「あ! けっこう店長、瞬間湯沸かし器なんだ!」

「あれ? 自転車がグニャグニャにされているけど、誰かバイトくんのじゃないの?!」

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のがわ かずお

1951年 東京生まれ。書泉を経て、高円寺文庫センター店長。その後、出版社のアートン・ゴマブックス・亜紀書房顧問。本屋B&B、西日本出版社などにかかわる。 温泉とプラモデルと映画を、こよなく愛する妖怪マニア。共著『現代子育て考5.男の子育て』(現代書館)、『独断批評』(第三書館)。


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