Scene.21 いいのか悪いのか、答えは風に吹かれている。
高円寺文庫センター物語㉑
「はい、文庫センターです。
ホームページを見てのご注文ですか、ありがとうございます」
文庫センターのホームページが出来たものの、ボクらが発信したいサブカル層にはまだまだ個人にパソコンが当たり前にはなっていない頃、なかなか注文は入らなかった。ホームページに、まだ注文フォームなんてなかった時代。
電話での問い合わせや注文は、なにか文庫センターを紹介した雑誌でも見てだったのか・・・・。
「りえ蔵、喋るからメモ頼むな。
はい、ジェームズ・ブラウンのフィギュアを2体ですね。ご住所が、はい。お名前は・・・・」
「店長! マーシーじゃないの!」
「イェイ! 興奮した、マーシーと喋っちゃったよ」
「わ! どんな感じでした?」
「まったく、普通だったけどね。ちょっと、暗いかな?!」
「文庫センター、マーシーの目に留まったのね!」
ボクらみんな、シャネルズから好きだったから興奮したぜ! 彼が新聞ネタになっても、非難はしない・・・・だって、注文をくれたんだぜ。イェイ♪
「店長。ひとわたり店内を拝見したので、喫茶店でお話を伺えますか?」
「そうだね。ボクの声がデカくなるし、4丁目カフェだね。
みんな、新文化さんの取材を受けて来るから。なにかあったら携帯な!」
「店長とサシでゆっくり話せるのって、滅多にないので恐縮です」
「こちらこそ、白井さん。文庫センターの10周年記念パーティーでは、ご参加をありがとうね。
今日は、どんな感じで喋ればいいの?」
「人文書どころか文芸書も売れない。書店が次々と潰れていく中で、小さな文庫センターが頑張っている秘訣をお話戴ければと思ったんです」
「それは個性的なお客さんが多い高円寺に、ジャストフィットした店作りが出来たことに尽きると思うな」
「先ほどはゆっくり雑誌を拝見しましたけど、『SMスナイパー』『薔薇族』『本の雑誌』『BURST』『PLAYER』『スタジオボイス』などが山積みで、客層がもろ見えですね」
「もう、定番商品なのよね。特集次第では、さらに売れ伸びるから出版社さんとの連携は欠かせないんだ。
売れる時の出足はホントに早いんで、直納と言って出版社さんから直接追加を持って来て貰わないと売り逃しかねないのよ。
書店見学に来られた本屋さんは、あまりに個性的過ぎて参考にはならないと呆れていると思うな」
「書籍では、情報センター出版局の『TATTOO STYLE BOOK』が、山積みって凄いですね?!」
「それは、白井さんの趣味で眼が行ったんじゃないの(笑)。
去年の夏に出てから、文庫センターの静かなロングセラー定番商品になっちゃった。『TATTOO MAGAZINE』って洋雑誌が、コンスタントに売れていたからね。売れるだろうとは思っていたの」
「それにしても、アイドルやAV女優の写真集も充実していますよね?! あれも店長の趣味なんですか?」
「その方面に詳しいバイトくんがいるので助かっているんだけど、アパート暮らしのシングル男子には必需品でしょ!
それに、近所にAVの会社があるので外せないところなの」
「ボクから見ても、相当マニアックな写真集の揃え方ですよ。一般的なアイドル写真集を好きなお客さんって、寄りつかないんじゃないですか?」
「それはこの狭いスペースなので、セレクトショップで行くしかないと思うんだけど。
臨機応変にマーケットに対応しつつっていうのもあるでしょ、AV業界の動向や深夜のテレビ番組を睨みつつお客さんとの格闘技ですよね。
単価も高いから頑張れるけどさ、ボクらの姿勢が受け入れられなくなったらという不安は抱えているよ」
「それって滅びの美学、店長の思想性が反映されているようですね?!」
「勘弁してよ。商売、商い、ビジネスなんだから生き延びないと!
あくまでも原則は、利益の追求だもん」