新保信長『食堂生まれ、外食育ち』【3品目】おでん定食というギャンブル |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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新保信長『食堂生まれ、外食育ち』【3品目】おでん定食というギャンブル

【隔週連載】新保信長「食堂生まれ、外食育ち」3品目

✴︎連載50回分が待望の書籍化『食堂生まれ、外食育ち』、絶賛発売中!

総頁:296頁/定価:本体1700円+税(KKベストセラーズ)

 

  ドーチカ以外でちょいちょい行ったのが、阪神百貨店の地下である。地下ばっかりで恐縮だが、大阪・梅田は地下街が異常に発達しているのでしょうがない。複雑怪奇な構造は「梅田地下ダンジョン」とも呼ばれるほど。ドーチカはそのタコ足のように広がったダンジョンの南端に当たる。

 ドーチカから阪神百貨店まではもちろん地下だけを通って行ける。当時の阪神百貨店は地下にフードコート的な飲食店街「スナックパーク」があり(今も店は入れ替わり規模も縮小されているがあることはある)、そこのおでん屋でおでん定食をよく食べた。おでん3品にごはんとみそ汁、たくわん。正確な値段は忘れたが、確か400円とか450円とかそのぐらいの良心価格だった。千円札で500円以上おつりがくる。

 ただ、ここで問題なのは、おでん3品は基本お任せで自分では選べないという点だ。人それぞれ、自分の中に「好きなおでんの具ランキング」があるだろう。ネットで検索してみると、いくつものランキングが出てくる。3位以下はバラけるが、どのランキングを見てもだいたい大根と玉子がツートップだ。私もご多分に漏れず、大根と玉子は大好き。ジャガイモやコンニャクもいい。嫌いなわけではないが、積極的に食べたいと思わないのがチクワやゴボ天などの練り物系。今は好きだが子供の頃は豆腐も興味がなかった。

 しかし、どの3品が出てくるかは運任せ。店側もある程度バランスを考えるから、練り物ばっかりということはないが、大根、玉子、ジャガイモなんていう大当たりはまず出ない。その3品のうちのひとつでも入っていればまだいいとして、チクワ、厚揚げ、昆布巻きとかだとガッカリする。せめて昆布巻きをコンニャクに交換してくれないか……。

 今にして思えば、注文時に「大根入れて」と1品指定ぐらいはできたのかもしれないが、子供にその発想はなかった。なので、毎回「何が出るかな、何が出るかな」とドキドキだったけれど、それはそれで駄菓子屋のくじにも似たちょっとしたギャンブル気分を楽しめたのだ。

 酒呑みの大人となってしまった今では、おでんはおかずというよりつまみである。それでも好きな具はあまり変わらない。逆に、子供の頃は嫌いというか食べられなかったのに、大人になって好きになったのがコロ(クジラの皮)である。東京ではあまり見かけないが、大阪ではそこそこポピュラーな具材だった。初めて食べたときの感想は「ゴムタイヤか!」。いや、ゴムタイヤを食べたことはないけれど、あの独特の食感と臭みは大人でも好き嫌いが分かれそうだ。昨今は高級食材の部類かもしれないが、機会があればぜひ一度お試しあれ。

 当たりかハズレかは、あなた次第。

 

 文:新保信長

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新保信長 著『食堂生まれ、外食育ち

作家・平松洋子さん推薦!!

「気配をスッと消し、食の現場をニヤリと斬る。

選ばしし外食者の至芸がすごい。」

外食歴50年超の著者が綴る異色の外食エッセイ!
一口に「外食」と言っても、いろんなシチュエーションがある。子供の頃に親に連れていかれたデパートの大食堂。夜遅く仕事帰りに一人で入る牛丼屋。ここぞというデートや記念日に予約して行ったレストラン。気の置けない仲間と行く居酒屋。たまの贅沢のカウンターの寿司屋。出先でたまたま入った定食屋。近所のなじみの中華屋や焼き鳥屋……。
誰もが心当たりあるような懐かしくも愛しき「外食の時空間」への旅が始まる!

カバー&本文イラスト描いたイラストレーターおくやまゆかさん。

イラストが最高に愉快!(全50点収録)

目次

序 「今日のごはん何?」と聞いたことがない

第1章 ノスタルジア食堂

1品目|外国人と鴨南蛮と中華そば
2品目|ランチタイム地獄変
3品目|「天丼」と「うどん天」と「シマ」
4品目|出前とデリバリー今昔物語
5品目|おでん定食というギャンブル
6品目|ハンバーグ記念日
7品目|おいしい味噌汁の条件
8品目|最高のおやつ
9品目|校外学舎の悲しき夕食
10品目|わんこスイカ
11品目|ところ変われば品変わる
12品目|「恵方巻」と「丸かぶり」
13品目|ちくわぶとはんぺん
14品目|「肉じゃが=おふくろの味」って誰が決めた?
15品目|スマホがなかった時代
16品目|Gに気をつけろ!

第2章 私が通りすぎた店

17品目|あの素晴らしい寿司屋をもう一度
18品目|気まぐれすぎる女将
19品目|選択肢のない店
20品目|日本一大きいビアガーデン
21品目|カニ・マイ・ラブ
22品目|国会図書館でナポリタンを
23品目|夫婦の肖像
24品目|サハリンの夜
25品目|インドで大炎上
26品目|開幕前の至福の宴
27品目|私がスポーツジムに通う理由
28品目|かわいそうな寿司屋とその弟子
29品目|残業メシ格差
30品目|よそンちの食卓はつらいよ
31品目|大食いと早食い
32品目| BGMも味のうち?

第3章 外食の流儀

33品目|大盛りはうれしくない
34品目|取り皿問題
35品目|デザート嫌い
36品目|お熱いのはお好き?
37品目|器のTPO
38品目|あんまり尽くされても困る
39品目|スパゲティがパスタに変わった日
40品目|何をかけるか問題
41品目|どの席に座るか問題
42品目|酒飲み認定
43品目|11人きた!
44品目|硬と軟
45品目|人はだいたい同じものを注文する
46品目|トングどっち向きに置く?
47品目|箸と愛国
48品目|ステキなタイミング
おわりに 入れなかったあの店の話

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新保信長

しんぼ のぶなが

流しの編集者&ライター

1964年大阪生まれ。東京大学文学部心理学科卒。流しの編集者&ライター。単行本やムックの編集・執筆を手がける。「南信長」名義でマンガ解説も。著書に『国歌斉唱♪――「君が代」と世界の国歌はどう違う?』『虎バカ本の世界』『字が汚い!』『声が通らない!』ほか。南信長名義では『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『1979年の奇跡』など。新刊『漫画家の自画像』(左右社)が絶賛発売中です!

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  • 新保 信長
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