Scene.24 伝説の続きを探すのさ!
高円寺文庫センター物語㉔
「店長、拡材を持ってきました!」
「お、ハットリちゃん。『THE BEATLES ANTHOLOGY』の、見本誌と飾りつけ用のPOPとかね。助かるわ・・・・」
「取次搬入を終えたので、明日か明後日には店着になるのでよろしくお願いします。
なんか店長、めちゃくちゃ笑顔じゃないですか」
「ハットリちゃんな。店長のお気に入りの、高橋尚子がシドニーオリンピックのマラソンで五輪新記録の優勝ばい。それに、巨人が劇的なサヨナラのリーグ優勝なもんでご機嫌なんよ・・・・ま、福岡ドームまでやね」
「もう、内山くん。なんでんかんでんよか、早くディスプレイを完成させるばい!
内山くんったらさ、音楽誌に写真入りで紹介されて店の看板になっちょるんよ!」
「そうですよね!
雑誌の『キーボード・マガジン』を見ていたら、ロッテ・オリオンズのキャップにアロハでビーサン写真の内山さん! こんな本屋、ほかにないですよ」
ロックと漫画に中央線もの、サブカルチャーテイストの商品は日本一早く仕入れて陳列することを心がけていた。
取次店という、出版社と本屋の流通を仲介する問屋に任せていると、普通の新刊書は紀伊國屋書店新宿本店に入ってから一週間は遅れて納品されるタイムラグ。
乗員3300余人の戦艦大和に、10人ほどの魚雷艇が1隻で立ち向かっていくようなもの! はなから勝負は考えるわけもないが、その広大な商圏下で戦い抜く戦略は店の「個性化」だった。
文庫センターの専任店長となって、8年目。「お客さんの、読みたいと思う時はいま!」に、応えるべく神田村の取次店へ仕入に奔走した日々。清志郎さんに「日本一ロックな本屋」と、言ってもらえたのは「1日でも早く読みたい」と思う、お客さんのニーズに応えてきたからだった。
スタッフの各々が、これは売りたいっていうよりも「読んで欲しい!」の情熱が、お客さんにも出版社の方々にも通じたんだと思う。
リットーミュージック刊行の『THE BEATLES ANTHOLOGY』は、一冊で3キロはある。
それを、見本と商品に拡材込みで持って来てくれる出版社の営業さん! ボクらの感謝の言葉は拙くても、飲み会やカラオケでじゃれ合い心通う連中だったな・・・・
「内山さん! 先日の狩撫麻礼&いましろたかしサイン会では、めっちゃカッコよかったですよ!」
「そげんな? 実際は、めっちゃ緊張しよったけんが。
サイン会が終わってから、狩撫さんに『ボクは今日、店長の代理なんです』って、言ったら『初めからわかってたよ』って言われてしもうたけんな」
「ねねね! サイン会が終わってから、丁寧な色紙を描いてもらって。打上げから、二次会にカラオケまで引き回したんでしょ!」
「なんばい。よぉ~狩撫さんと気が合ったけんが、当然ね」
「それにしても、店長。よく、内山さんにサイン会を任せましたね!」
「京子っぺ、先日は助っ人ありがとうな。だから法事だって、静岡まで行ってたの。
内山くん、バイトでもベテランじゃん! 高円寺ROCKシーンのスターだよ。サイン会の仕切りぐらい、安心して任せられるってば」
「わたしね、そん時も極貧でサインしてもらう『ハード・コア~平成地獄ブラザーズ~』も買えなかったの!
でもさ、でもさ。カラオケで狩撫さんが、わたしに椎名林檎を歌えと言って『歌舞伎町の女王』を歌ったら、イェイだって。楽しかったわ!
狩撫さんは両脇に女がいれば満足みたいでさ、わたしが女ってだけで優遇空間。内山さんが大ファンなのに、近寄らせなかったですよね。澤田さん、どう思います?」
「いましろさんは、カラオケは苦手だと帰られたんですよ。
古屋兎丸さんやコミックビームの編集長とかもいらしてて、狩撫さんはザ・イエロー・モンキーの大熱唱。でも、編集長さんの応援団風『待つわ』が、すっごい面白かったんです!
三次会もカラオケで、狩撫さんが『みんなで演歌を歌うことにしよう!』って、狩撫さんといったらカリブ海のボブ・マーリーでしょ?! レゲエから演歌まで、守備範囲が広いですよね」
「すっげ、打上げだったんだね。いっぱいお金使っちゃったみたいで、悪かったなぁ~
サイン会進行は、問題なかったかい?」