Scene.25 向かい風が吹いてきた、飛べ!
高円寺文庫センター物語㉕
「三回目の取材に応じていただいて、本当に恐縮です。いつも話が中断しちゃうので、結論からお話しますね。
ボクが来年から立ち上げる『旬の本』というコーナーを、『ダカーポ』本誌で連載するので執筆をお願いできませんでしょうか?」
「いいっすよ。字数を含めた、進行予定を教えてもらえば頑張っちゃいます」
「ありがとうございます!
先日のインタビューで、業界紙の『新文化』にコラムを執筆されていたお話から、引き受けて下さればいいなって思ったんですよ」
「じゃ、諸条件をメモで渡して下さいな。
なにしろ、忘却とは=無責任っていうのが大前提ですから(笑)」
雑談のなかで、ボクの長男と変わらない年齢と知っちゃ・・・・この頑張っている、にいちゃん編集者に最後まで付き合うしかないでしょ!
「実は、ボクにとってのカリスマ編集者って、都築響一さんなんです。この冬、たまたま本屋で見かけた雑誌の『流行通信』の表紙に都築さんのお名前を見たんです!
『東京ロード ムーヴィング』というタイトルの特集の中に、都築さんは『都築響一の高円寺ライフ』を、書かれていたんです」
「それは、取材を受けたの覚えてるな。見本誌も送られたけどね、悪いけどさ、ワンパターンなキャプチャーだった記憶しかないな」
「この3月号がそうなんですけど、ボクには高円寺の魅力が都築さんに語られてバイブルになっちゃったんですよ!」
参ったね。都築さん、ご本人がいらしたりと風が吹いてきた! 向かい風は揚力となり、機体を持ち上げる期待感があるのだった。
「店長、店長。いま帰って行ったの、ヲタキングじゃないの?!」
「そうですって、あら大原さん! またまた、お久しぶりじゃないですか。
そうなんですよ、バディでわかる岡田さん! お初なので、眼が合ったからご挨拶と思ったらレジから呼ばれて。
戻ったらいらっしゃらないという、シャイな方なのかなぁ・・・・」
「あら、ワタシのせいかしら。ごめんなさい」
「いんですよ。すべては、ご縁です。諦め切れぬと、諦めましょ」
「それって、高田渡的添田唖蝉坊(笑)
そうじゃなくて、注文を取って下さいな?! リスキーな岩波書店の本だけど、必ず買いますからね」
「以前の『小さな本屋は、なぜ岩波書店の本を置かないのか』談義に、拘ってますね(笑)」
「だって、岩波の本は返品もできないって、流通の機微も知らないで言いたい放題言ってたのは、懺悔よねぇ。
文庫センターは、岩波の新書に文庫も置いて頑張っているのにね。お願いしたいのは、これ『ドリトル先生航海記』」
「それって、子供の頃の読書を児童書から大人版でって話した一冊じゃないですか!」
「岩波少年文庫って、読み耽ったくちだから触発されちゃったの。
でもね、岩波もいまだに『ドリトル』って凄いわよね。いまどきの読み表記なら『ドゥーリットル』でしょ、それだと東京初空襲の爆撃隊を連想しちゃうから変えないんじゃない?!」
「鋭い!
『ドゥーリットル航海記』なんぞに改訂したら、戦前の生き残りジジイは孫に買ってあげないですよ。岩波のほどよい、バランスじゃないですか」
「店長! 町田ひらくサイン会、やるの! その日は出張で無理なんだ」
「お! タツロクさんのご贔屓だったの?!」
「リベンジあるかなぁ・・・・」
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