消費される「お天気キャスター」という職業
現在観測 第23回
隠された構造の矛盾について元天気キャスターである加藤順子さんに寄稿していただきました。
テレビの4月期からの番組出演者の陣容が続々と発表され、気象コーナーを担当する顔ぶれも話題になっている。
NHK「ニュースウォッチ9」の気象キャスターで気象予報士の井田寛子さんは、TBSの「あさチャン!」に“移籍”、日テレの「NEWS ZERO」は担当する女子大生キャスターが入れ替わるという。気象コーナーというのは、たいていそこで番組の視聴率がぐっと上がることもあり、各局ともどんな人物を採用するのか工夫を凝らす部分だ。
女性気象キャスターに立ちはだかる「40代」の壁
かつて、出演者として、また裏方としてもテレビの気象コーナーにかかわっていた筆者は、つい、気象キャスターの動向が気になってしまう。ただ、毎年期待していても、なかなか見ることができないのは、ベテラン女性気象キャスター・気象予報士の活躍である。
40代でテレビに出ている女性気象キャスターというのは、数えるほどしかいない。ましてや、地上波に出演している40代女性の気象キャスターは、私の知る限り1人だけ。テレビ朝日の夕方のニュース番組「スーパーJチャンネル」に主演する今村涼子さん(41)だ(他にもいらしたらごめんなさい)。
男性の気象キャスターは、若手から白髪のベテランまで、各局に様々な年齢層の人が活躍している。しかし、同じ気象予報士資格を持つ気象キャスターでも、女性は……となると、どうだろうか。
各局とも似たような傾向があるが、NHK総合を例にするのが最もわかりやすい。各番組に出演する男性の予報士は、長年見かける顔も多いのに対し、女性の予報士は短いサイクルで顔ぶれが入れ替わる。ちなみに、絶大な人気を誇っていたあの半井小絵さん(43)の出演期間は9年。局員から「異例の長さだ」と言われたと、本人が教えてくれたことがある。
若くはない年齢を逆手にとって活躍した女性気象キャスターも、いなくはない。TBSのアナウンサーで、「お天気ママさん」の相性で親しまれた石井和子さん(70)だ。石井さんが気象予報士の資格を取得したのは49歳の時で、のちに日本気象予報士会の2代目会長も務めた。しかし、今村さんが登場するまで、石井さんの後はなかなか続かなかった。
ほとんどの女性気象キャスターが40歳になる前に辞めていくか、出演の機会を失ってしまう。40歳を過ぎても活躍している例はわずかにあるが、地上波ではなく、CS放送や、ラジオ番組の気象コーナーに移っている。
「出産を機に職場を離れていく人が多く、一度離れると戻ってくる席がない世界。だからみんな結婚しない。結婚していても出産しない」
CS放送に出演を続ける、ある40代の女性気象キャスターは、周囲を見渡して、実情をそう証言する。
「衣装も、“お天気お姉さん”のようなカワイイものが用意されていることがある。私に何を求められているのかな? って考えてしまう。男性は若くてもスーツなので、そのイメージの差だけでもすごく象徴的ですよね……」(同キャスター)
女性として年齢を重ねながら専門職としてキャリアの育成を望む気象予報士の気象キャスターの像と、番組の制作者の意図や世間のイメージにずれが生じている事がわかる。
本来なら、気象解説者として信頼される人物を、放送界が育成していくことが重要で、性別や年齢は優先的な要素ではないはずだ。専門職として、予報技術や解説の芸が磨かれていく間に年を重ね、気がついたら40代、50代になっていたというテレビの世界の女性気象予報士・気象キャスターが、男性同様に増えてもよいはずである。
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