Scene.26 ようこそ、本屋へ! ようこそ!
高円寺文庫センター物語㉖
「店長。町田ひらくサイン会、どうだったの・・・・」
「あ、タツロクさん。出張、お疲れさま! 週末の出張なんて、大変でしたね」
「そんなことより、サイン会。こないだの、いましろたかしサイン会より女子率が高かったんじゃないの?!」
「タツロクさん、よくわかりますね。トータル35人のお客さんで、女子が多かったですよ!」
「さわっちょさん。そりゃ、こないだのいましろたかしサイン会じゃあるまいし権藤右近のような男たちが静かに並んでるわけないでしょ」
「権藤右近って、いましろさんの漫画に出てくる不器用キャラですよね。そんなお客さんは、いませんよ。
アニメ絵とも違って、緻密なタッチの町田ひらくワールドだから、ロリコン成人漫画でも女子にウケてるんですよ」
「それに、タツロクさん!
35人ってお客さんが、ゆるくて時間にもゆとりがあったから、町田さんは色紙にも丁寧なイラストを描き入れてたわよ」
「もう、りえさん!
それ、聞きたくなかったな・・・・お店用に書いてもらった色紙を見せて下さいよ」
「それにね、打ち上げも盛り上がったの!
漫画家の山本夜羽音さんや、知らない漫画家のお仲間さん達まで参加されちゃって!」
「うわ・・・・。サイン会に来れていたら、絶対に打ち上げにも行っていたなぁ!
でも、このサイン会写真の町田さんの可愛らしいファッションと作品のギャップがあるなぁ」
「そうなんですよ。お話ししていて、常識的な方だなって思いましたよ」
「店長。やっぱり、リベンジ! また、サイン会して」
アタマの中には、Ben E.Kingの「Stand By Me」が流れる。
Scene.26 ようこそ、本屋へ! ようこそ!
「店長、お世話になっております」
「お! 今日の売れ行き調査は、長さんなんですか?!」
「それもありますが、サイン会の件と、明後日に封切の映画『バトル・ロワイアル』の件とで来ました」
文庫センターを成り立たせてくれる出版社のBEST10、燦然と上位に位置するのが太田出版さん。
そしてこの営業さんは、書店経験があるだけに非の打ちどころのない営業スタイルを見せてくれて学ぶことが多かった。
フレンドリーでありながらも、崩れ過ぎていない言葉づかい。そして立ち位置! ここが肝心なのだが、正対されると店内への万引き監視視線が妨害されるのを知っていて横に並んで話してくれる。
さらに来客に対しては、一緒になって『ありがとうございました』と言い、頭まで下げる。
自社の新刊案内や、他社の類似書籍との比較トークに、ほかの書店の売行き情報。文庫センターの売行き動向から、陳列方法に至るまでのアドバイスと、書店営業の基本から極上コースへと完璧だった。