Scene.26 ようこそ、本屋へ! ようこそ!
高円寺文庫センター物語㉖
12月にイベントをやるのは、中旬までがギリだった。下旬ともなれば、高円寺の上京組はどんどん田舎に帰ってしまって集客が望めなくなる。
書店・出版業界では、忘年会シーズン。なにかと気苦労も多いイベントは避けて、年末とお正月を迎えたいのが本音なんだけど・・・・
文庫センターのバイトくん達が、声を揃えて「山本直樹の『Blue』だけは、読んでください」って、ボクに!
その山本直樹さんの最新刊が太田出版から、出る! しかも聞けば山本直樹さんは、今年から太田出版の漫画雑誌『マンガ・エロティックス』で、スーパーバイザーを務めているとのことだった。
そんなご縁から、サイン会をご指名していただけたのが、太田出版からの新刊『テレビばかり見てると馬鹿になる』奥付的には12月20日発売なのだが、有難き先行発売のサイン会となったのだ。
「お疲れさまです、店長。
年末にもかかわらず、サイン会を引き受けて下さってありがとうございます。あれ、ちょっと顔色が冴えないような?」
「長さんに、森川さん!
サイン会のお話をありがとうございます。すでにもう、お客さんの行列が出来ていますよ。この時期は、快晴続きでいいですねって、顔色?!
昨日がNR出版会の忘年会で、二次会まで日本酒漬けで・・・・じゃ、始めますよ」
「こんな時期に恐縮です。では、よろしくお願いします」
「あれ、犬ちゃん。来てたんだ、今日はファンとしてかい?」
「そうなんですよ~!
森山塔名義の、エロ漫画も好きなんですよね。主人公クラスがイケメンでもなくて、作品のテーマに思想性が感じられるのでハマるんです。
ほら、書いてもらったサイン達筆でしょ!」
ゲゲゲの呑み会の常連、犬ちゃんが来てくれた。それに山本直樹さんの弟子と言うかアシスタントだった、山本夜羽音さんも駆けつけて45名は大盛会になった。
「あっれ、水絵ちゃん。今日は、どうしたの?」
「年末の、ご挨拶です。
と言うか。犬ちゃんに遭遇したら、文庫センターの山本直樹サイン会で長さんにお会いしたって言っていました」
「そりゃ、バリバリ太田出版企画のサイン会だったからね。
でもさ、彼ら凄いわ。森川さんが、内山くんと一緒に山本直樹さんの傍でフォローしてね。長さんは、レジでお買い上げのお客さんに頭下げているんだもん」
「それも、犬ちゃんに聞きましたよ。業界の人間にしたら、括目させられるスタンスじゃないですか」
「だよな!
そん時さ、昔のことを思い出していたんだよ。本店でさ、本屋での新人研修に先輩面して若手を3・4人連れてきた奴いたの。新人たちに仕事させといて、『店長、お茶しに行きましょう』だって。
風の噂に出世しているみたいなんだよな、そいつ。どんなコネか人脈があるんだかな、調子いい奴には敵わないよ・・・・」
「まったくねぇ。
わたしなんて愚鈍に生きてきちゃって、この先どうなることやらって・・・・あまり思ってないですけどね」
「愚鈍は、お互いさま。ってっかさ、小零細の版元と本屋って愚鈍の連続じゃないか?!なんかさ、みんな生真面目なんだよな・・・・
愚鈍より、うどん喰いてえや」
「いいと思いますよ。店長は、そこが好きなんでしょ?!
そうそう、今年の文庫センターの忘年会は場所がまだ決まらないんですって?」
「水絵さん、そうなんですよ。増えに増えて、40人近いのでお店ごと貸切りにしないと無理なんです」
「いんじゃないですか、文庫センターの応援団が増えたってことで。りえさん、どこかに場所ありそうなんですか?」
「高円寺は飲み屋が多いし。
出版の人たちって普段からあちこちでよく飲んでいるでしょう? ゲゲゲの呑み会だって毎月12・3人なのに、忘年会には駆けつけようって思うのかしら」
「わたしは距離を置いてますけどね。時間も金もないし」
「店長。カオスパニックって、お店を知ってますか?」
「知らないな、忘年会に借りられそうなの?」
「そこなら、50人は入れるそうですよ!」
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