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Scene.27 まだまだ、夢の途中だぜ!

高円寺文庫センター物語㉗

「本忘年会に結集された! すべての出版社並びに書店の同志諸君に対して!」

「なんじゃあれ、全共闘かい!」

「店長。たまに変なのが降りて来るので、ほっときましょ」

「店長! 乾杯のまえから飲んでるのか~」

「あの店長、飲んでも飲まなくても変わんないですよね」

労働運動のシュプレヒコールで鍛えた声は、デカいんだぞ! って、第一声で度肝を抜いて挨拶に集中してもらう作戦。

恒例になった文庫センターの忘年会。今年はついに、ボクらスタッフ以外で38人も来てくれた!

参加人数を想定したら、これまで利用していた飲み屋では収容不可とわかって大慌て。これは、お店を借り切るしかないと見つけたのがカオスパニック。なんて、文庫センターの忘年会にふさわしいネーミングなんだ!

30坪にも満たない小さな本屋が、お客さんを待っているだけの店作りじゃ長持ちしないと判断したからさぁ大変。援軍の来ない籠城戦は意味がないと、打って出て突っ走ってきた12年目。

PRには『高円寺街歩きmap』、店作りはサブカルチャーとROCKで個性を出して、イベントを行うことでマスコミに取り上げてもらえば集客は関東圏にまで広がるかと目論んだ。

そうした成果が、この出版社や取次に本屋仲間と作家さんやライターの方々まで駆けつけてくれる忘年会へと結実したと思える。

「店長。来年も、個人的にも参加したくなるイベントして下さいよ」

「店長。清志郎さんで、ハードルが上がっちゃったと思うんですけど、高円寺ならではのミュージシャンで地道に行きましょうよ」

「店長。カルチャーやアートシーンの幅を広げません? ROCKとサブカルだけじゃ限界あるでしょう」

「店長が好きなんだったら、映画関係でなんかやりましょうよ」

「中島らもさんのサイン会やったんだから、高円寺に合う作家でしょ?!」

アルコールの勢いもあって、みんなハイテンション。ありがたいよな、みんな自分が楽しみつつ文庫センターを応援してくれている!

「みなさん、どうもありがとう!

ボク自身が思うんだけどさ。近所に、こんな本屋があったらいいなって本屋が高円寺文庫センター。みなさんの自宅の近所の本屋ともども、応援してね!

ボクら、必死に頑張る。イベント持って来て、今夜はありがと! 来年もよろしく、イェイ♪」

 

アタマの中には、サイモン&ガーファンクルの「明日に架ける橋」が流れる。

Scene.27 まだまだ、夢の途中だぜ!

 

2001年.21世紀の幕開けは、三が日も穏やかな快晴で明けた。

正月の楽しみは、人混みが苦手だから恒例の箱根駅伝テレビ観戦。往路で法政大学が健闘したものの中央大学が追い上げて優勝。ところが、総合力に勝る順天堂大学が往路を制しての総合優勝となった!

365日。詣でることもしないので、なにが初詣とやはり人混み嫌いのへそ曲がり。箱根駅伝で、富士山と湘南の海の風景を楽しんだ後はワープロで読書・映画鑑賞記録2000年版を整理したりして過ごしていた。

穏やかな正月に気分も晴れやかと、ところが心中実は穏やかざるものがあった。年末のボーナスが減少、売上げ減が如実に反映され始めてきた。

いま手元にある手帳の書き込みに、驚愕する。

「当然のように年末ジャンボは当たらず、夢も金も儚いままで21世紀に突入した! 今年はついに50歳となる。まったく低空飛行のままだ・・・・」以下、略。

ちょうど30年前の書泉に入社当時は、「不況に強い書店・出版業界」と言われていたものだったのが今は昔。

時代は、無慈悲に変わる。懐が寂しくなれば、真っ先に本代が削られる・・・・そうさ、本なんぞ読まなくても立派な大人はいくらでもいる。

そういえば、社会派の出版社の新泉社が暴走族の写真集を出したことがあった。そんな時にかかった電話の話は、忘れ難い!

「その写真集は、どこに行けば買えるんだ?」

「本屋さんで、売っていますよ」

「本屋って、どこにあるんだ。そんなところに、行ったこともない」

まぁ、いいさ。あと2・3年でも暴れてやろうじゃん! 負けるな文庫センター、ここにあり。

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のがわ かずお

1951年 東京生まれ。書泉を経て、高円寺文庫センター店長。その後、出版社のアートン・ゴマブックス・亜紀書房顧問。本屋B&B、西日本出版社などにかかわる。 温泉とプラモデルと映画を、こよなく愛する妖怪マニア。共著『現代子育て考5.男の子育て』(現代書館)、『独断批評』(第三書館)。


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