ウクライナ侵攻、ロシアはどこまで〈悪〉なのか【佐藤健志】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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ウクライナ侵攻、ロシアはどこまで〈悪〉なのか【佐藤健志】

佐藤健志の「令和の真相」41

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は5月12日、ロシア軍によるウクライナ侵攻が今年2月下旬に始まって以降、近隣諸国へ逃れたウクライナ避難民は600万人を超えたと発表した。

◆この侵攻をどう捉えるか

 ならば今回の侵攻、どのような構図で捉えるのが適切か。

 攻め込んだのがどちらの側かは揺るがない以上、「ロシアが悪い」という見解が台頭するのは必然でしょう。

 

 しかも大規模な軍事侵攻に人道危機はつきもの。

 ウクライナから国外に逃れた避難民は、5月半ばの時点で600万人を超えました。

 祖国に戻った人も少なくないようですが、だから構わないという話にはなりません。

 ロシア軍がキーウ周辺から撤退した後は、民間人の殺害や拷問など、国際法に反した残虐行為、いわゆる戦争犯罪がこれに加わります。

 

 後者については、情報戦、つまりプロバガンダによる誇張や虚偽が含まれている可能性もあるでしょう。

 とはいえ、ロシアが非難をまぬかれるわけではありません。

 侵攻に踏み切ったりしなければ、情報戦をしかけられることもなかったのです。

 

 ウクライナ軍とて必ずしも人道を尊重していないかも知れませんが、これについても同じこと。

 今回のようなケースでは、喧嘩両成敗はまず認められません。

 ロシアはいかんせん分が悪いのであります。

 

 ウクライナをナチになぞらえる主張も、51日、セルゲイ・ラブロフ外相が「ヒトラーもまたユダヤ系の出自を持っていた」などと発言するにいたって、すっかりミソをつけてしまいました。

 ゼレンスキーがユダヤ系であることを意識したのでしょうが、ラブロフ自身「私の記憶が正しければ、いや間違っているかも知れないが」と前置きしたことがすべてを語っている。

 意地を張ったあげくの自滅的なトンデモ発言、そう見なされても抗弁できた義理ではありません。

 はたせるかな、プーチンは55日、イスラエルのナフタリ・ベネット首相に謝罪するハメとなりました。

 

 た・だ・し。

 

 「攻め込んできて、人道危機を引き起こしたのだからロシア=悪」の図式で、すべてを割り切ることもできません。

 2014年いらい、ドンバス地方が内戦状態にあったことを別としても(当然、ここでも人道危機は生じていたでしょう)、ウクライナのナショナリズムは、アメリカやEUの覇権戦略と密接に結びついているのです。

 

 

◆戦略的パートナーシップの内容

 現に202111月、ウクライナはアメリカと「戦略的パートナーシップ憲章」を取り交わしました。

 これは200812月に取り交わされた旧憲章をバージョンアップさせたもの。

 

 両国が戦略的パートナーだという宣言にいたっては、19969月、アル・ゴア副大統領(アメリカ)とレオニード・クチマ大統領(ウクライナ)によってなされています。

 このときの大統領は民主党のビル・クリントンでしたが、旧憲章を取り交わしたときにホワイトハウスにいたのは共和党のジョージ・W・ブッシュ。

 今回は民主党のジョー・バイデンですから、過去四半世紀、アメリカは超党派でウクライナを後押ししてきたのです。

 で、憲章前文の第4項はこう宣言する。

 

 【(米・ウクライナ両国は)ロシアの継続的な攻勢に対抗し、ウクライナの主権、独立、および国際的に認められた国境に基づく領土の一体性の維持について、断固として取り組むことを強調する。ここで言う領土とは、クリミアおよびウクライナの領海を含むものとする。ロシアの攻勢は、この地域の平和と安定を脅かすだけでなく、世界的な国際秩序のルールを損なうものである】

 

 2014年、ロシアはクリミアに侵攻、同地域の併合を宣言したものの、それを決して認めないという次第。

 憲章の第2節第1項では、ドンバス地方の内戦についても「ロシアによって引き起こされたもの」と規定したうえで、ロシアがウクライナにたいし、一貫して悪意ある振る舞いを見せていると批判しています。

 つづく第2節第5項にはこんな一節が。

 

 【NATOの高次機会パートナーとしての地位を最大限に活用し、NATOとの連携能力を高めようとするウクライナの努力を、アメリカは支援するものである】

 

次のページ反ロシアの情報戦にまで合意

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【佐藤健志氏によるオンライン読書会のお知らせ】

 

 ウクライナ侵攻と関連して、Zoomによるオンライン読書会を下記の通り開催します。

 「強兵なくして主権なし〜ロシアの視点を理解して、日本が取るべき戦略をつかめ」

 

 ◆開催日時:2022年6月18日(土)14:00〜16:00

     講義  14:00〜15:30

     Q&A 15:40〜16:00

※質問多数の場合、Q&Aコーナーの時間を延長します。また参加者全員に録画アーカイブを配信しますので、リアルタイムでご参加いただけない方も安心してお申し込み下さい。

 

解説書籍:『「帝国」ロシアの地政学』(小泉悠、東京堂出版、2019年)

 

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佐藤 健志

さとう けんじ

評論家・作家

 1966年、東京生まれ。東京大学教養学部卒業。

 1989年、戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』で、文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を当時の最年少で受賞。1990年、最初の単行本となる小説『チングー・韓国の友人』(新潮社)を刊行した。

 1992年の『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋)より、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。これは21世紀に入り、政治、経済、歴史、思想、文化などの多角的な切り口を融合した、戦後日本、さらには近代日本の本質をめぐる体系的探求へと成熟する。

 主著に『感染の令和』(KKベストセラーズ)、『平和主義は貧困への道』(同)、『右の売国、左の亡国 2020sファイナルカット』(経営科学出版)、『バラバラ殺人の文明論』(PHP研究所)、『夢見られた近代』(NTT出版)、『本格保守宣言』(新潮新書)、『僕たちは戦後史を知らない』(祥伝社)など。共著に『新自由主義と脱成長をもうやめる』(東洋経済新報社)、『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)、『国家のツジツマ』(VNC)、訳書に『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』(PHP研究所)、『コモン・センス 完全版』(同)がある。『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』は2020年、文庫版としてリニューアルされた(PHP文庫。解説=中野剛志氏)。

 2019年いらい、経営科学出版でオンライン講座を制作・配信。『痛快! 戦後ニッポンの正体』全3巻、『佐藤健志のニッポン崩壊の研究』全3巻、『佐藤健志の2025ニッポン終焉 新自由主義と主権喪失からの脱却』全3巻を経て、最新シリーズ『経世済民の作劇術』に至る。2021年〜2022年には、オンライン読書会『READ INTO GOLD〜黄金の知的体験』も同社により開催された。

 

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