Scene.29 本屋には、素敵なミュージック!
高円寺文庫センター物語㉙
イベントはお酒も入った打ち上げが愉快で、来てくれたお客さんに少し申し訳なかったかな。
そんなイベントが、またひとつ。
珍しく「魚民」で打ち上げをした、都築響一ビデオトーク・ライブ。会場の高円寺社会教育会館は、二階のホールへは屋外階段を上がるので快晴が心地よかったのを覚えている。
都築響一という、カリスマ編集者を迎えるイベントなので来客予測もつかずバイトくんの応援も頼んでいた。
さすがにヴィジュアルを大事にされる都築さんは、写真をスライドで上映されることを希望されたので、プロジェクター担当のスタッフもスタンバイ!
イベントスタートのMCを務めた後は、受付に行って来客状況を確認。予約者の来場と、時間的な経過から受付終了としてボクらも楽しむことにした。
名編集者は文章も巧い。その文章は、言葉に変えても人柄と声音の魅力でさらに魅せられ惹きつけられてゆく。
柳腰で語るトークは、新宿二丁目テイスト好きなボクらにはジャストフィット。途中参加でも、瞬く間に都築ワールドに酩酊して笑う笑う。
笑い過ぎて酸欠状態は、記憶回路に変調をきたしたようで・・・・せっかくのトークが、なにも覚えてない!
トーク・ライブが終わって、会場を去るお客さんの満足げな表情にイベントの成功を確信できた。
なんつったって、うるさ型の常連客NO.1の木田さんが奥様とかな・・・・ご一緒に立ち去りながらの、視線がOK! と、言ってくれていた。
そういえば打ち上げの宴席で、ゲゲゲの呑み会常連の犬ちゃんが雑誌『ラジオライフ』在籍に食いついていたのはなんでかな、都築さん?!
Scene.29 本屋には、素敵なミュージック!
「店長。ご無沙汰してすいません、すずさわ書店です」
「わ! えっと、えっと・・・・
申し訳ない、スタッフに誰だっけって聞いて急場を凌ぐんだけど。その暇もなく」
「構わないですよ。書店の店長には、来客が多過ぎてたまに来る営業の名前は覚えられないですよね。
なかなか営業に出られないんですけど、去年のいまごろ来た時も店内にサザンの『TSUNAMI』流していましたね」
「あれは発売直後だったから。このメロディーラインが、好きなんですよ!
スタッフもROCKやR&Bと、自分たちが働きやすいCDかけていますもん」
「以前は、U2をガンガンでしたね。
ガンガンと言えば、去年のNR出版会の忘年会。例によって挨拶はぶち上げたそうで、漏れ伝わってきましたよ。NRさんへのシンパシーは凄いですね!」
「NR出版会や流通対策協議会に集う出版社は贔屓しますよ。小さな版元ばかりで、しかもろくに売れるような傾向の本じゃないでしょ。
1975年頃かな、書泉ブックマートの地下は左に進むと円柱があってね。右翼思想にシンパシーを持っていた後輩の土田くんが円柱の右の中台で右翼書コーナー、ボクが左側の壁面を左翼書でコーナー作りしていたの。
係長が理解あって、近所のウニタ書舗には足を踏み入れ難いお客が付くかもって売上げ次第で許可してくれたら見事に成功したんですよ」
「なんでも、時代と立地や条件を読んでの商売ですね。
大手書店があまり置かない本を、だからこそ小さな街の本屋が置いての応援でもあるし、オリジナリティも出せるということですか」
「本屋は新刊書や文芸担当が花形に見られるんですけどね。
客単価の売上げでも、まとめ買いがあるボクらの方が上回っていたんですよ。売れればいいだけで品揃えしていたら、いつか時代状況を見誤るって本屋の沽券にかかわる問題ですよ!」
「店長。沽券って、指さしているのは股間ですよ。店長!」
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