Scene.29 本屋には、素敵なミュージック!
高円寺文庫センター物語㉙
「こんにちは!」
「藤川ちゃん、どう? 思潮社の二代目と編集長相手は、慣れた?!」
「長くなるので、それは置いといて。
小耳にはさんだのが、某出版社の社長さんが店長にお詫び入れたそうですよね」
「そうなんだ。遠藤ミチロウさんのイベントがさ、オシャカになっちゃったお詫びに来てくれたんだけど・・・・どっかで聴いたのね?!」
「そうです!
それで、うちから『真っ赤な死臭』という、遠藤ミチロウ全歌詩集があるので、どうかなって思ったんです」
「ベリウェル! それで、ミチロウさんに繋げられるかな?!」
「店長! HELP! I need some body.
お願い、店長なら頼りになると思って駆け込んだのよ・・・・昭和も戦前から戦中戦後の時期の写真を大量に必要なの!」
「わ、大原さん。はい、随時応相談!
藤川さん。わりい、電話するからね」
「あら、出版社の方。ごめんなさいね!
仕事が来るだけでありがたいから、守備範囲外の企画も受けちゃったの。近現代史で写真なら店長だと思って、大き目の見やすい写真集がいいのよね」
「自宅の書庫から閃いたのが、毎日新聞社が出した『1億人の昭和史 日本の戦史』ですね。日清・日露戦争から太平洋戦争までの全10巻、ちょっと写真が荒いかも知れませんよ。
去年のシドニーオリンピック特集号で、休刊になった『アサヒグラフ』かな。朝日新聞社の『アサヒグラフに見る昭和の世相』全5巻で、これは紙質が良いので使えると思います。
ただ両方とも古いので、国会図書館に行かれた方が早いんじゃないですか」
「あら、だめよ。必要な写真は切って使うことになるから」
「それじゃ、ボクが便利にしている早稲田通りに近い古本屋の長谷川さんを紹介しますよ」
「助かるわ!
知識と知恵の分電盤みたいな本屋さんって、最高ね」
「はい、ミーティングに行くよ。四丁目カフェな!」
「あれ、店長。折り畳み式の携帯に変えよったと!」
「この方が、ポケットに入れやすいけんが仕事中も邪魔にならんけんね。
はい、四月はご苦労様でした。営業時間中の二日にわたる棚卸しと、なんと言っても日販から大阪屋への帳合変更による大量の荷物の入れ替えは、ご苦労さんでした。
それに、POSレジの導入か。怒涛の春の嵐みたいだったね」
「でも、日販さんも大阪屋さんも気持ちよく応対してくれたのでよかったわ!
店長こそ、連日の残業でご苦労さまでした。GWはしっかり休んでくださいね」
「送品の量には驚いたと思うんだけど、あれでも基幹商品は二社間の伝票処理で動かさずに済んでいるんだよ。
POSレジの仕組みは、じっくり説明するけどさ。問題は、イベントなんだよ!」
「相原コージサイン会ですよね。『コージ苑』が文庫センターの鉄板商品だったから、絶対に成功するって思っていましたもん!」
「それに『かってにシロクマ』もコンスタントに売れていましたでしょ、相原さんはシロクマよりクロクマの印象でした」
「ビッグコミ連載の『相原コージのなにがオモロイの?』の幟旗を相原さんの後ろに飾るって、最高やったね!
彼の最高なのは『コージ苑』で、原発のCM依頼があったのを電力会社に断ったことやね」
「そんなん聞いてなか。サイン会の前に言ってよ・・・・」
「それより、ミチロウさんばい!
まさか、スターリンが? って思うたけんが・・・・来てくれたばいね。打ち合わせに来られる前に、普通にマックに並んでいるのを見たのは不思議な光景やったわ」
「そりゃ、スターリンのハードなイメージだったのがさ。打ち合わせで打ち解けたら、ダジャレの連発で強烈な落差を感じたもんな。
りえ蔵やさわっちょには、ここまでしか言えないよ!」
「だと思います。
ミチロウさんと店長。サイン会が終わってからも、『最近、和服の女性がいいのよね』なんて話して意気投合しているなって・・・・トホホでした」
「なんか批判的だなぁ。いいか、ロックはろくでもない野郎だしパンクは頭のパンクした連中のミュージックだぜ!」
「ところで、店長。この先は、まったくイベント予定がないですよ」
「だよな。みんな、なんとか頼むよ!」
「よお!」
「よお、後で行くわ!」
「店長。どなたなんですか?」
「あだ名はリュウキンつって、生まれ育ちの地元は池袋中学の同級生なんだ。
彼とは池袋のドラムやアピアで、グループサウンズのモップスやゴールデンカップスを観まくっていたの。あの頃はライブハウスじゃなくて、ジャズ喫茶っていっていたんだよな・・・・。
ゲットしたTHE BEATLES日本公演のチケットは、彼のお母さんのコネだったんだもん! ま、ボクのROCKLIFEの恩人かな」
「店長にしては、よお覚えとるばい。羨ましき、中学時代やね!」
「日本のミュージック・シーンが目まぐるしく動いていた頃だから、忘れようがなかよ!
テレビはまだフォークでさ、マイク真木からブロードサイド・フォーやフォーククルセダーズに変わって行くのを観ながら学校へと家を飛び出してた。『ヤング720』とかって番組だったかも。
彼に誘われていったのが『ビートルズがやって来る ヤア! ヤア! ヤア!』。池袋の東武デパートには映画館があってさ、150円の頃だったと思うよ」
「そんな方が、どうして突然?」
「こないだの四丁目カフェのミーティングの帰りに、カフェの向いのカレー屋から出てきたのでビックリ!
聞けば、このカレー屋を始めたって言うじゃん! 浮かんだのは、武士の商法。あいつ、ばあやがいるようなお坊ちゃん育ちだよ。
カレーの味以前に、愛想の良い接客って基本ができるか心配になった」
「めっちゃ、久しぶりだったんでしょう?! それが四丁目カフェの前って、高円寺って凄いわよね。やっぱり、ROCKが引き合わせた感じなのかしら」
「それよか店長。やっぱ日本のROCKの黎明期から、ずっと見てきたのって羨ましすぎますもん。ちゃんと、話を聞かせて下さいよ!」
「そうだな、じゃ今夜は大将で焼き鳥と行くか!」
「店長。本屋さんの裏話って、凄まじいですよね!」
「でしょ!
本屋の廃業を偽善的に、かつノスタルジック・テイストで書く輩にはアタマくるの」
*本連載に関するご意見・ご要望は「kkbest.books■gmail.com」までお送りください(■を@に変えてください)
- 1
- 2