ウクライナ侵攻、米欧は果たして黒幕か【佐藤健志】
佐藤健志の「令和の真相」42
◆ロシアはウクライナを放っておいたか
のみならず「米欧黒幕論」は、ロシアの主体性も無視している。
つまりここには
「米欧がウクライナを放っておきさえすれば、ロシアもウクライナを放っておいたはずだ」
という暗黙の前提がひそんでいます。
けれどもウラジーミル・プーチン大統領は2011年いらい、「ユーラシア連合」という独自の地域覇権構想を提唱している。
かつてソ連の一部だった諸国を再結集、EUに対抗できるような国際秩序の枠組みを築こうとするものです。
2015年にはその前段階となる「ユーラシア経済連合」が発足しました。
「ユーラシア連合」の英語名称は「Eurasian Union」ですから、素直にイニシャルを取ればこちらもEU。
区別のためでしょう、EAUと呼ばれるようですが、まさに「類似品にご注意下さい」の世界です。
そしてウクライナをこの枠組みに参加させられるかどうかは、ユーラシア連合の勢力がヨーロッパにまで及ぶか、中央アジアから東に留まるかの重大な分岐点。
ウクライナの地理的な位置から言って、これは明らかでしょう。
ところがウクライナ、プーチンの構想に乗ってこない。
親ロシア派とされるヤヌコーヴィッチすら、EUとの関係強化をめざしたことが示すように、完全に西側を向いているのです。
2020年、ユーラシア経済連合創設5周年を取り上げた記事にも、こう書かれてしまう始末。
【ユーラシア経済連合は、本命のウクライナには逃げられ、加盟国も増えず、統合も思うように深まらないと、パッとしない状況にあります】
ところがお立ち会い。
2010年代後半になって、自由主義諸国では「反グローバリズム」の動きが持ち上がりました。
ひらたく言えば、アメリカとEUの覇権にたいする反発です。
ロシアにとっては嬉しい話。
さらに2021年には、ユーラシア大陸におけるアメリカの覇権の後退を端的に示す出来事が起きる。
8月末、アフガニスタンから米軍が完全撤退したのです。
アメリカの後ろ盾によって、どうにか維持されていた「アフガニスタン・イスラーム共和国」は、撤退が完了もしないうちから総崩れに。
8月15日には反政府勢力タリバン(正式名称「アフガニスタン・イスラーム首長国」)が首都カブールを掌握、大統領の座にあったアシュラフ・ガニはアラブ首長国連邦に亡命しました。
あまりにぶざまな顛末のせいか、ジョー・バイデン米大統領の支持率も、この日を境に50%を割り込み、現在にいたるまで回復していません。
アフガニスタンの動静については、中田考さんの著書『タリバン 復権の真実』に詳しいのですが、果たしてプーチンは、この状況でウクライナを放っておいたか?
どう考えても、答えはノーでしょう。
ウクライナを勢力下に留めておけるかどうかが、ロシアの国家戦略を左右する重要性を持ち、かつウクライナが親米・親EUの姿勢を崩さない以上、米欧の対ロシア戦略のいかんを問わず、今回の侵攻は不可避だった。
こう結論せざるをえません。
反グローバリズムの風潮と、アメリカの覇権の衰退、わけてもアフガニスタンでの大失態が、それに拍車をかけた次第です。
というわけで「米欧黒幕論」も、「とにかくロシアが悪い論」と同じく、事態の一面しか捉えていないのですが・・・
今回の侵攻の全体像をつかむには、さらに考慮すべき点があります。
この先は次回、お話ししましょう。
文:佐藤健志
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【佐藤健志氏によるオンライン読書会のお知らせ】
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「強兵なくして主権なし〜ロシアの視点を理解して、日本が取るべき戦略をつかめ」
◆開催日時:2022年6月18日(土)14:00〜16:00
講義 14:00〜15:30
Q&A 15:40〜16:00
※質問多数の場合、Q&Aコーナーの時間を延長します。また参加者全員に録画アーカイブを配信しますので、リアルタイムでご参加いただけない方も安心してお申し込み下さい。
解説書籍:『「帝国」ロシアの地政学』(小泉悠、東京堂出版、2019年)
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