Scene.30 本屋の労働運動を知っておいて!
高円寺文庫センター物語㉚
「いらっしゃい、殿。はい、今日はオムチキンライス二人前ね」
「わあ、ママさん。わたしの分まで、用意してくれたんですか」
「殿がね、指でサインを送って来たから準備万端よ!」
「しかも、玉子の上にケチャップで『おつかれさん』て書くなんてマスター!
店長が、ニューバーグさんを絶賛する意味がわかりました」
「高円寺文庫の、開店からずっと見ているでしょ。
面白そうなことやって頑張っていると、応援したくなるのよ」
「ごちそうさまでした、店長とまたニューバーグさんでご馳走になりますね。
今日、学ばせてもらったのは、味というのは、人情が加味されるものだと認識しました!」
「だろ。旨いっていうのは、優れて極私的な認識なんだよな。人情もだけど、思い入れやその時々の感情でさえ旨味判断を左右するからね」
「店長。久しぶりにじっくりお話聞きたいので、時間あります?」
「手帳には+50分ってあるから、OK。四丁目カフェに行くか」
「それって、以前聞いた休憩時間や残業時間も自己管理している話ですか?」
「そうだよ。労基法に定められた労働者の権利は、こと10分であろうがサービス残業なんて御免だし些細なことからでも経営者に認識させていかないとな」
「そこですよ!
労働三法は、明治・大正・昭和の労働運動があって勝ち取ってきた成果だと思うんです。そうした先人のご苦労を蔑ろにして、働かしていただいている的なマゾ史観ってどうなんですか?!」
「さすがだなぁ、そんな連中は完ぺきな大日本帝国史観な。
粗末な衣食住足りて労働者階級意識を忘れる、だよ。反政府的な公労協や国労・動労は解体されて、民間でも不当労働行為の連発で組合を潰して来てるからね」
「店長が頑張ってきた、本屋さんの労働運動はどうなんですか?」
「光文社に代表される、出版社の労働争議が勃発した70年代。本屋はボクら書店労協が80年代を頑張ってきたけどさ、個別撃破されてきているもんな」
「そんなに本屋さんの労働組合って、あったんですか?」
「あったさ!
紀伊國屋書店・丸善・三省堂書店・弘栄堂書店・栄松堂書店・精文館書店・駸々堂書店・京都書院・森住書店・コーベブックス・書泉・信山社・大盛堂書店・洋書センターとかとキリないよ」
「えぇ! そこを聞きたいですよ。
全然、世間的には公にされてないですよね?!」
「そうなんだ。
本屋の労働運動なんて、マスコミは見向きもしない。さすがに、業界紙の『新文化』は1面で紹介してくれたけどさ。
ごめん、そろそろ店に戻らないと」
「めっちゃ、気になりますよ。また、聞かせて下さいね!」