Scene.31 なんてったって、本屋!
高円寺文庫センター物語㉛
「以前も話したと思うんだけど、消費動向を推し量る常連さんに木田さんって方がいるのね。職業柄もあって、必要な本は一日も早く手に入れたいわけよ。うちの週に一、二度の神田村への仕入じゃ、彼のニーズに応え続けるには限界があるでしょ。
それに、うちの長男ね。高い本はボクの社割で買うけど、急ぐとなったらアマゾンだなんて言い出してるんだよ。
ボクの住んでる江戸川区なんて、ちょっとした本や専門書は手に入れにくいの。地方では町に本屋が無くなりだしたって、全国を取材で歩いてる永江さんの方が詳しいでしょ。
とにかく、危機感でいっぱいですよ」
「ということは、なにが本のためになるかということをこの国の本の世界にアマゾンが突きつけたということでしょうか?!」
「それはそうでしょ。
取次店経由では注文品が、一週間から10日かかりますって現実と書店の空白という間隙にアマゾンが浸透していくんじゃない」
「店長が常日頃言っている、一般的な売れる新刊も入荷しない現実から新刊依存でなくセレクトショップとして、既刊本で成り立たせていく方針が難しくなるとも思いますか?」
「取次の自動配本を拒否して、一点一点を吟味して仕入れる現状でさ。ある本が高円寺にハマって売り切れてしまったら、次の入荷まで待てないお客さんはアマゾンに手を出すでしょ。
それが怖いのよ。アマゾンの便利さに味をしめたら、リアル本屋に足を運んでくれるのかって!」
「文庫センターは、午前1時までやってるからって飛び込んで注文しにくるお客がいるって言っていましたものね。
高円寺ならではの顧客が、その利便性ゆえにアマゾンに取られてしまうということですね?!」
「仕事で本や雑誌を必要とする方は、個人でパソコンを持ち始めているじゃない。いまの出版流通の仕組みじゃ、アマゾンに太刀打ちできないってば!」
「対策を考えてます?
マージンがいいグッズで稼げても、大ヒット商品はなかなかないでしょう」
「考えてはいても、35坪の狭さは限度があってさ。それが、もどかしい」
ニューバーグにママさんがいない。
寡黙なマスターの背中では、なにも読み取れない・・・・なにか、あったのだろうか。
なにも言えなかった。
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