男女のジェンダー意識の差はどうすれば埋まるのか?【渡辺由佳里×治部れんげ】
『アメリカはいつも夢見ている』新刊記念トークイベント【渡辺由佳里×治部れんげ】①
エッセイスト、洋書レビュアー、翻訳家の渡辺由佳里さんが新著『アメリカはいつも夢見ている』を刊行。本書の大きなテーマのひとつに「ジェンダー問題」がある。発売を記念して、渡辺さんが考える「ジェンダー問題の乗り越え方」について、『「男女格差後進国」の衝撃』という著書もあるフリージャーナリストの治部れんげさんに話を聞いてもらった。第1回を公開。
■人は価値観を変えることができるのか?
渡辺:自分とは全然考え方が違う人であっても、徐々に考え方を変えてくれるというのは実際にあることです。個人的な話になりますが、夫の弟の子どもが成人してから「甥」から「姪」になりました。夫の弟は離婚して再婚した後、前の結婚での子どもたちと全然会っていなくて、それだけでなく、義母や義弟が主催するクリスマスなどの家族の集まりにも前妻の子どもたちが招かれないようになったのです。
家族の中で交流しているのは私たち夫婦だけで、この状態をなんとか変えたいと思っていたんです。娘がわが家で結婚式を挙げることになり、娘と私たち夫婦は最初から姪を招待するつもりでいました。でも、ずっと交流を断っている他の家族たちは甥が姪に変わったことを知らないわけです。ですから、彼女のおばあちゃん、つまり私の義母に事前に教えてあげるべきだよね、という話になったんです。そこで、姪の許可を得て、長男である夫が2人きりで義母に説明することになりました。
義母は保守的な人で、夫が話を最初は「I don’t understand.(理解できない)」と繰り返すだけだったようです。姪が結婚式に来ることを夫が伝えた後で、私も義母と電話でいろいろな話をしました。
最初は違和感を語るだけだったのですが、そのうち「またhe(彼)って呼んじゃったわ、私。こういうのいけないんでしょう?」みたいな感じになってきました。そこで、私たちは義母に「みんな、そういうものだよ。はじめはショックだったり、よく分からないのも当然だと思う」と話しました。
彼女が生まれ育った環境では、「男と女」しかなかったわけで、女性は結婚したら家に入って夫を支えるのが当然でした。そういう環境で育った80代後半の人に、突然男の孫のトーマスが女の孫のラリッサになったと言われてもよく分からなくて当然なのです。だから、それでもOKなんだ、自分がcomfortableな範囲でやっていけばいいから、という話をしました。それで娘の結婚式までにはなんとなく落ち着いたんです。
それから2年ほど経って、最近私が義母の誕生日に電話をしたら、「ラリッサ(姪)が電話してきてくれたのよ」って言うんです。「孫の中で誕生日当日に電話してきてくれたのは彼女だけだわ。また何かプレゼントを送ってあげなくちゃ」って。2年間の間に、それだけ義母は進歩したわけです。
だから、「分からない」とか「変だと思う」という気持ちを受け入れてあげることも必要じゃないかなという気がするんですよね。
治部:今のお話の核は、基本的に祖母と孫娘の関係ですよね。元々の関係性に愛情があると、時間がかかっても、できるだけその子の幸せの方向で受け入れていくようにする。大切なのはそこなのかなと感じますね。
渡辺:大抵の人は悪意があって(差別的な発言とかを)やっているわけじゃなくて、他の人の視点というものを学ぶ機会がなかったことが一番大きいと思うんですよね。
ですから日本のジェンダー格差というのは、「そういうものなんだ」と信じている親によって育てられた子どもたちが社会に出て、例えばそういう親に育てられた教師になって、そういう子どもたちを育てる。そうやってジェンダーの思い込みが強化されたものだと思っています。テレビの番組やコマーシャルでもジェンダーの役割が決まっている形のものを見てきて、「これが普通なんだ」と思ってしまっている人たちがマジョリティになっている状況だと思うのです。その中で「これはおかしいんじゃないか?」と思う人が少数派の場合には、なかなか変わることができない。
社会全体がそうやって教育してきてしまったのですから、個人を責めることにはあまり効果がなくて、かえって「絶対変わるものか」と頑なにさせるだけです。
私自身もそうだと思います。それまで親しみを持って考え、応援していたことであっても、私が重要だと思っていることや疑問を口にしただけで「その考え方はtone-deaf(世の中のことに鈍感)だ」、「差別者だ」みたいに決めつけられて批判されたら、もう彼らのことを理解してあげようという気になれなくなってしまう。そして、「べつに私には他にいろいろ重要なことがあるから、あなたたちはご自分で頑張ってください」みたいな感じになってしまう。それがやっぱり人間の心理です。
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