「ジェンダー平等が全てのジェンダーのため」になるのはなぜか?【渡辺由佳里×治部れんげ】
『アメリカはいつも夢見ている』新刊記念トークイベント【渡辺由佳里×治部れんげ】②
■アメリカでジェンダー意識が大きく変わったきっかけとは
渡辺:ジェンダー平等についてアメリカで大きく変わったきっかけは、「タイトル・ナイン」(※)だと思います。そこから女性のアスリートにも機会の平等を与えることになりましたし、全ての大学が女性向けのクラブも設置しなければいけないことになりました。(※「タイトル・ナイン」:1972年教育修正法第9篇。アメリカの教育機関における性差別を禁止している[『情報・知識imidas』より])
「タイトル・ナイン」がその後大きなジェンダー平等の動きに発展した理由はいくつもあるんですけれども、その一つが「お父さん」だと思うんです。すごく出来のいい娘が生まれた場合に、そのお父さんたちは突然フェミニストになるんですよね。スポーツでも「うちの娘のほうがここにいる男の子よりもできるのに、なんで平等に扱われないんだ?」みたいな感じになるんです。
治部:ああ。それは確かになりますね。
渡辺:アメリカの小学校の算数オリンピックのボランティアに誘われて入ったことがあるんです。発起人のお父さんはマサチューセッツ工科大学(MIT)で数学を選考した人で、他のボランティア2人も「インドのMIT」と呼ばれる大学卒業のお父さん。私以外のボランティアはこれらの「お父さん」でしたが、私たちボランティアの子どもは全員が「娘」でした。算数ができる娘を持ったお父さんたちが娘を応援するフェミニストになって、「クラブを作ろう」みたいな感じだったかもしれません。私の周りにもそういう人がいっぱいいたので、全米レベルでも多かったんじゃないかと思います。
「お前は女の子だから算数はできない。料理だけやってればいいんだ」みたいに考えられていると、本当にそうなってしまう子が多いでしょう。でも、あの「算数オリンピック」のお父さんたちのような人たちが「いや、そんなことないよ」みたいに家庭で応援すると、女の子たちも「あ、べつに何をやってもいいんだ。学者になってもいいし、アスリートになってもいい」みたいに育ってくるんですね。
こういった意識の変化もあり、「タイトル・ナイン」の以前と以後では本当にいろいろな場面で女性が進出するように変わってきています。だから法律ってすごく大切なんだなと感じました。
治部:会社で女性活躍を一生懸命やり始めた経営者の方に理由を聞くと、自分の会社が、「優秀な娘」に活躍できるような環境ではないことに気がついて、いきなりやる気になるんですね。
渡辺:「自分事」というのはかなりパワフルです。それと、ジェンダー平等って、男性にとってもお得なんですよね。「お父さんが大黒柱として経済的な責任を負わないといけない」って、男性にとってもすごく大変だと思います。ジェンダーの格差を埋めるのは女性のためだけではなくて、男性のためでもあるんですよね。
我が家もそうですが、両方が働いていると「外で働くつらさ」も分かるし、「働きながら家事をするつらさ」も分かります。だから、互いを分かり合える部分があります。それに両方が働いていると、自分が何か失敗してもバックアップがあるという安心感や、夫婦がチームになって絆が深まります。
私は「日本で男の子として生まれなくて良かったな」と思うのですが、それは「きっとすごい重圧だっただろう」と想像するからです。いい大学に行って、いい仕事を見つけて、結婚するならある程度収入も良くないといけない。そういうプレッシャーが大きいと、誰でもやっぱり嫌になるんじゃないかなという気はするんです。
そういったものが「フェミニズム」とか「フェミニスト」という言葉への嫌悪感みたいなものにも繋がっていると思います。「女のほうが楽していて恵まれているのに、これ以上俺たちからパワーを奪うわけ?」みたいな気持ちになるところはあるでしょうね。
それを取り去るためには、両方が働いて、両方が家事をして、両方が育児を頑張る、お互いに助け合う、という方法しかない。ですから、よく言われることですがジェンダーギャップを埋めるのは全てのジェンダーのためなんですよね。
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