ウクライナ侵攻とナショナリズムのねじれ【佐藤健志】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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ウクライナ侵攻とナショナリズムのねじれ【佐藤健志】

佐藤健志の「令和の真相」43

 

◆ナショナリズムと帝国主義

 上記の点については、「ウクライナ侵攻、ロシアはどこまで〈悪〉なのか」「ウクライナ侵攻、米欧は果たして黒幕か」もご覧いただきたいものの、検討すべき第三の解釈がある。

 今回の戦争を、「ウクライナのナショナリズムと、ロシアの帝国主義(ないし覇権主義)の対決」と捉える解釈です。

 

 ここで言うナショナリズムとは、

 〈国家は、人種・言語・歴史などを共有する人々の集団(これをネイションと呼びます)を基準に形成されるべきであり、それぞれの国の政治・経済システムも、ネイションの意思によって自由に決められるべきである〉

 と見なす考え方と定義されます。

 つまり大国であろうと、周囲の国々のあり方にあれこれ口を出すいわれはありません。

 

 逆に帝国主義、ないし覇権主義は、

 〈個々の国家(あるいはネイション)の枠を超えて、普遍的な政治・経済システムを導入することが、地域全体、さらには世界全体の平和と繁栄をもたらす〉

 と見なす考え方。

 ゆえに大国が周囲の国々を従え、みずからの政治・経済システムに組み込んでゆくのは、組み込まれる側の国々にとっても望ましいという話になります。

 

 第二次大戦後の世界で、かつて植民地だった地域が次々と独立、国家の数が急速に増えたことが示すように、われわれは「ナショナリズム=善、帝国主義・覇権主義=悪」という通念を持っている。

 国連加盟国など、1945年の創設当時には51ヶ国でしたが、現在は193ヶ国に達しました。

 

 みずからの覇権構想にウクライナを巻き込もうとしたあげく、思い通りにならないことに苛立って侵攻に踏み切ったロシアの姿勢は、間違いなく帝国主義。

 片や自国を守るべく、侵攻にたいして果敢に抵抗するウクライナの姿勢は、ナショナリズムの見本と言えます。

 よって「ナショナリズム=善、帝国主義・覇権主義=悪」の通念に基づくかぎり、ウクライナが善で、ロシアが悪。

 そう、そのはずですが・・・

 

 例によって例のごとく、話は単純ではない。

 NATO加盟による欧州への統合をめざしたり、2008年いらい、アメリカと「戦略的パートナーシップ憲章」を取り交わしたりしていることが示すように、ウクライナのナショナリズムは米欧の国際戦略と密接に結びついているのです。

 こちらの戦略も、自由民主主義を普遍的なものとして世界的に広めようとする点で、帝国主義、ないし覇権主義の性格を持っている。

 ジョージ・W・ブッシュ政権(つまり息子のほう)の黒幕と目されたカール・ローヴ上級顧問など、2002年に「今やわれわれは帝国だ」と言い放ちました。

 

 悪であるはずの帝国主義・覇権主義と結託しても、ナショナリズムは善でありつづけるのか?

 かりにそうなら、当該のナショナリズムの後ろ盾となる帝国主義・覇権主義についても、悪と見なすことはできないのではないか?

 ウクライナ戦争は、ここでも単純な解釈を許さないのです。

 

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【佐藤健志氏によるオンライン読書会のお知らせ】

 

 ウクライナ侵攻と関連して、Zoomによるオンライン読書会を下記の通り開催します。

 「強兵なくして主権なし〜ロシアの視点を理解して、日本が取るべき戦略をつかめ」

 

 ◆開催日時:2022年6月18日(土)14:00〜16:00

     講義  14:00〜15:30

     Q&A 15:40〜16:00

※質問多数の場合、Q&Aコーナーの時間を延長します。また参加者全員に録画アーカイブを配信しますので、リアルタイムでご参加いただけない方も安心してお申し込み下さい。

 

解説書籍:『「帝国」ロシアの地政学』(小泉悠、東京堂出版、2019年)

 

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佐藤 健志

さとう けんじ

評論家・作家

 1966年、東京生まれ。東京大学教養学部卒業。

 1989年、戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』で、文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を当時の最年少で受賞。1990年、最初の単行本となる小説『チングー・韓国の友人』(新潮社)を刊行した。

 1992年の『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋)より、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。これは21世紀に入り、政治、経済、歴史、思想、文化などの多角的な切り口を融合した、戦後日本、さらには近代日本の本質をめぐる体系的探求へと成熟する。

 主著に『感染の令和』(KKベストセラーズ)、『平和主義は貧困への道』(同)、『右の売国、左の亡国 2020sファイナルカット』(経営科学出版)、『バラバラ殺人の文明論』(PHP研究所)、『夢見られた近代』(NTT出版)、『本格保守宣言』(新潮新書)、『僕たちは戦後史を知らない』(祥伝社)など。共著に『新自由主義と脱成長をもうやめる』(東洋経済新報社)、『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)、『国家のツジツマ』(VNC)、訳書に『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』(PHP研究所)、『コモン・センス 完全版』(同)がある。『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』は2020年、文庫版としてリニューアルされた(PHP文庫。解説=中野剛志氏)。

 2019年いらい、経営科学出版でオンライン講座を制作・配信。『痛快! 戦後ニッポンの正体』全3巻、『佐藤健志のニッポン崩壊の研究』全3巻、『佐藤健志の2025ニッポン終焉 新自由主義と主権喪失からの脱却』全3巻を経て、最新シリーズ『経世済民の作劇術』に至る。2021年〜2022年には、オンライン読書会『READ INTO GOLD〜黄金の知的体験』も同社により開催された。

 

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