Scene.32 本棚が涙に滲む・・・・!
高円寺文庫センター物語㉜
「いっき! いっき! いっき!」
お酒を一気にあおる囃子言葉じゃないが、漫画雑誌の創刊にこれほど勢いのあるタイトルはないな、小学館の『IKKI』。
超メジャーな出版社とは無縁としか思っていたので、小学館から指名されての『IKKI』オフィシャルショップは驚き桃の木山椒の木!
まだ『ビッグコミックスピリッツ 増刊IKKI』の位置付けでも、労働運動でいえば決起集会のようなド派手なパーティーに招かれてしまった!
「店長。凄かねぇ、床が光ってジョン・トラボルタの『サタデー・ナイト・フィバー』みたいになっとると」
「店長が好きな映画、『時計じかけのオレンジ』チックな雰囲気じゃない?!
でもさ、招かれているのは有名書店ばかりよね。ビビる!」
「内山くん、りえ蔵。
お腹すいたよ。セレモニーはいいから、食い物ダイブさせてくんないかな」
「店長。我慢して、並み居る大手書店に伍して文庫センターが招かれたのは『IKKI』の販売実績を見ているからなんだから。巨人軍よ、紳士たれでしょ」
「なんでんかんでよか。
『IKKI』は山本直樹から始まって、これは小学館のプチ『ガロ』路線ばい。サブカル路線を狙ったけんが、文庫センターのキャリアとバリューを計算しとるとよ」
「ホントよね!
『IKKI オフィシャルショップ』と言って、デモンストレーション販売促進活動にきた時に小学館営業部のパンダの被りモノにはオッタマゲーション・マークだったわ」
「あの小学館が、そこまでやるんだって感心したよな!
サブカル路線で突っ走って来てさ、小学館に頼りにされるのも嬉しいけど。ボクらの目線は、どんな版元でもニュートラルだもんな」
「めっちゃ長く本屋でバイトしとるけんが、この本って思っても版元名は見んけどな。それじゃいかんとね、店長」
「よかよ、高円寺目線で。
みんなの感性が反応した本を、仕入れ条件など含めて考えるのが店長の仕事ばい」
Scene.32 本棚が涙に滲む・・・・!
「みんな、開店前の荷解き検品中で悪いけど手を動かしながら聞いて!
今日は早稲田の学生さんたちが取材に来るからさ、開店前後の掃除はそれなりでいいからね」
「お客さんの、あまり来ない午前中に済ませちゃうんですね」
早稲田の学生から取材依頼の電話を受けた。確か商学部、それじゃ長男の後輩じゃないかとOK。これまでも、本屋の実情などで講演の依頼があれば引き受けていた。学生たちに、少しでも書店出版業界を知ってもらえたらと引き受けた次第。
「店長さん、今日はご迷惑をおかけしますがよろしくお願いします」
「きちんと挨拶はできたね。
ではまず、みなさんで店内をよく見ていただきたいと思います。お話は、その上でね」
「店長さん、もう始まっているんですね?!」
「あのね。理屈は主観的にできても、実践は客観的にならざるを得ないですよ。
出版社の営業さんで初めて来た方には、店内を見てもらって商品構成から文庫センターの個性を理解してもらうようにしていますから」
「サブカル日本一、ロックな本屋と聞いてきたんです。
絵本や児童書の棚があったり、岩波書店の新書や文庫が充実しているのに驚きました」
「詩集がまとまってあるし、ビジネス書の売行き良好書まであるとは思いませんでした」
「POPが林立してウザい書店が多いんですけど、お手製だと思えるPOPには惹きつけられるものがありました。
驚いたのは、文庫にオリジナルの帯をかけているんですね?! なんか、タワーレコードに近いものを感じたんです」
「ヴィレッジヴァンガードは、雑貨のなかに本や雑誌がある感じでした。文庫センターは本や雑誌の中に雑貨があるんですね」
「はい、みなさん。さすがに書店訪問を重ねただけあって、丸裸にしてくれましたね」
「アポ入れの電話でもお話しましたが、消えゆく街の本屋の状況下で20年ほども頑張っている秘訣を知りたかったです」
「本を必要とされる方に一刻も早く届けたい。なにか本を読みたい方に、こんな素敵な本もありますよって伝えたい思いが通じたんじゃないかな」
「アマゾンの日本上陸は、本屋さんに脅威じゃないですか?」
「キャンパスの生協書籍部が、充実する以上の危機ですよ。
アマゾンの件を話すと長くなるので、またの機会を設けましょうかね」
「最後にお聞きしたかったのが、『天職』ってどうお考えですか?」
「限りある命のなかで、時間を消すことができるような仕事だと思います」