Scene.33 書棚から本が呼ぶ声がする!
高円寺文庫センター物語㉝
鈴木いづみ、さん。
TOKYO程度じゃ、受け入れられるのも無理だと思ったもんな・・・・ニューヨークで、世界に羽ばたいて欲しかった。鈴木いづみ&阿部薫・・・・。
『わたしのまえにだれもたつな』『理屈はあとだ、みんな死ね』『感受性が鋭くてしかも元気でいる、というのはむずかしい』
労働争議を抱えながら、元気を奮い立たせて陽気に店長を演じていた頃は、よく降りてきた彼女の発した言葉たちだった。
まさか自宅で首つり自殺をするなんて、享年36歳。モデル、俳優、作家として70年代を彩った、浅川マキと共にわがイコン。若松孝二監督作品や寺山修司の『書を捨てよ 町へ出よう』などの映画で、射すくめられてしまったが、文章まで書く才能にはさらに魅せられた!
あちこちに書き散らかされた彼女の文章が、『鈴木いづみコレクション全8巻』にまとめられるなんて、上梓した出版社の文遊社には感嘆符しかない。
当然これは高円寺に受け入れられるだろうと、『声のない日々 鈴木いづみ短編集』『阿部薫 1949‐1978』とともに、書棚の一角にコーナーを作っていた。
これに応えてくれる高円寺は嬉しい。静かに、ずっと売れ続けてくれる「サイレント・ロングセラー」。
レジに持って来てくれたお客さんに出逢えた時は、眼を見据えて魂の奥底まで「ありがとう」を、伝えたつもりだった。彼女の言葉のまえに、陳腐なPOPはあまりにも失礼と、かたくなに1・2点を面陳にしてPOPに代えていた。
文遊社の営業さんは、あまりにも寡黙。大丈夫ですよ。50も超えた「カリスマ店長」は、すべてお見通し。
小さな出版社が、小さな本屋に来てくれるのは「いづみちゃん」が、高円寺なら売れるってわかっているんだもんね。
『ブコウスキー・ノート』『クール・ハンド・ルーク』等など。本郷台地にひっそり蠢く、こんな出版社が好きなんだ。
「おっはよ~みんな!
今日こそ忘れずに、清志郎さんからの年賀状を持ってきたよ」
「わ!
すごかね。お好きな自転車で、体力測定でもしてると?」
「この書き込み、笑える!
『もう自転車いいですから、音楽やってくださいよ』って、マネージャーさんの突っ込みかしら」
「あとね!
都築響一さんと古屋兎丸さんからも、年賀状来てるんだなぁ!」
「わ! どれですか?」
「あら、みなさん。笑顔炸裂で、文庫センターらしさが戻ったわね。
忌野清志郎さんって、やっぱりBIGは律儀なのよ。賀状の温もり感よね!」
「いらっしゃい、大原さん。
店長は先日、笑いの補給だって鈴本演芸場で昼の部に居続けたんですって!」
「昼の部は経験あるんだけど、お年寄りが多くて病院臭くなかった?!
ところで、お目当てがあって行ったの?」
「やっぱ、病院臭いっていうか、薬の匂いですよね。
漫才でね、のいる・こいるなんですよ。落語は圓蔵、小朝、こぶ平でしたよ」
「あら、落語もいいけど。のいこいよね!
律儀な東京漫才の典型って感じで、好きだわ・・・・良かった 良かった 良かった 良かった」
「わお!
大原さん。のいこいさんの真似、フリも巧いじゃないですか!」
「店長、店長。電話、電話。清志郎さんのマネージャーの、大山さんからですよ!」
「わわわわわ! みんな、聞いてくれ!」
「そんな、大声ば出さんでも小さな店やけん聞こえるばい」
「あのさ、清志郎さんの新刊でね!
また文庫センターで握手会しようって、言ってくれたんだよ!」
「ゲゲゲゲゲゲ、清志郎さんがまた来てくれるの?!」
「だよ!
みんな、大原さん。一昨年の9月10日、清志郎さんが去り際に『店長。また、やろうね』って、ホントだったぜ! イェイ♪」