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自民がダメだから維新に入れるというのは愚の骨頂【適菜収】

国家という前提のない維新に国政を任せてはならない!

松井一郎は大阪市長を任期満了で、政界引退を表明している。大阪府知事の吉村洋文は「大阪都構想の住民投票はもう二度とやらない」と明言しているが・・・

■維新には国家という前提がない

 

 私は橋下や安倍をこれまで批判してきましたが、彼らを物理的に隔離したとしても一件落着という話にはなりません。近代の病が、橋下や安倍みたいな形で表出したのであり、それを生み出したのはわれわれの社会であるからです。

 ニーチェは、『この人を見よ』で言います。

 

《ただ私は個人を強力な拡大鏡として利用するだけだ。危機状態というものは広く行きわたっていてもこっそりしのび歩くのでなかなかつかまらない。ところが個人という拡大鏡を使うとこれがよく見えて来るのである》

 

《またこれと同じ意味において私はヴァーグナーを攻撃した。もっと正確に言うと、すれっからしの人を豊かな人と取り違え、もうろくした老いぼれを偉人と取り違えているドイツ「文化」の虚偽、その本能雑種性を私は攻撃した》

 

 風邪をひいている人間を見ることはできても、「風邪自体」は見ることができません。

 それと同じで、ニーチェはヴァーグナーという個人を論じることで、時代の病を浮かび上がらせようとしました。根源的な問題は橋下個人、安倍個人の邪悪性より、今の世の中に蔓延る「橋下的なもの」「安倍的なもの」です。だから安倍政権が終わっても、問題が解決したわけではありません。

 ネトウヨがよく言いがちな「いつまで安倍さんの批判をしているのか」というのは、「いつまでナチスの責任を追及するのか」と質的には同じです。

 いつまでも考え続ければならない問題は存在します。

 イタリアのファシズムは国家機能の強化を唱えましたが、現在は国家と利害が衝突するグローバル資本が大きな力を持つようになっています。

 だから、ウォール街で「もはや国境や国籍にこだわる時代は過ぎ去りました」などと放言する人物が総理大臣になったり、竹中や菅が背後にいる維新が躍進したりするのです。維新は新自由主義勢力に乗っ取られた自民党の補完勢力、先兵、鉄砲玉、露払い役として動いてきました。

 維新の拡大が示すのは、ナショナリズムの衰退です。

 大阪では新興住宅地では維新の支持率が高く、昔からある町では支持率が低い。これは社会学者の薬師院仁志帝塚山学院大学教授から聞いた話ですが、西区のように転出入率が高く、タワーマンションが次々と建っているようなところは、維新の支持率が高いのです。

 つまり、地元に対する愛着があるかどうかの問題です。大阪市解体を巡る住民投票で高齢者層の反対が多かった理由は、発想が古いからでも、既得権益を持っているからでもなく、彼らが地元に根付いていたからです。

 地に足がつかなくなると、人間は私的な利益しか見ようとしなくなります。まさにアレントの言う「根無し草」です。

 だからこそ、維新は徹底的にコミュニティ潰しを行ないました。町会を圧迫したり公共施設を廃止し、市民を分断しました。

 維新は黒字になっていないという理由で赤バス(大阪市のコミュニティバス)を潰します。アホにも限度があります。高齢者や障害者の足となるバスの運営を民間企業が行なうのはきついので、赤字を前提に行政がやらなければならないのです。つまり、維新は「公共」という概念を理解していない。いや、このような言い方は正確ではありません。公共を攻撃することが、連中の役割なのです。

 維新は医療福祉を切り捨て、公立病院や保健所、医師・看護師などの病院職員、保健所など衛生行政にかかわる職員を大幅に削減してきました。「民営化」と言いながら、一部の政商に利権を流し、「身を切る」と言いながら国民の身を切ってきたわけです。

 社会的弱者に対して共感が及ばないのは、同じ国民であるという同胞意識が働かないからです。維新には国家という前提がありません。だから、すべて間違うのです。

 

(適菜収『ニッポンを蝕む全体主義』祥伝社より抜粋)

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  • 目次

はじめに−−「B層」とは何か?

 

第一章 内田樹と『日本辺境論』

 

辺境と偏狭

プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神

B層グルメと某評論家

B層という言葉が出てきた経緯

なぜ日本はこんなことになってしまったのか

ルース・ベネディクトの『菊と刀』

安倍晋三の行動原理

学問のブレイクスルー

マイケル・ポランニーと暗黙知

百人一首を暗記する意味

「型」を知るということの贅沢

 

第二章 自立を拒絶する人たち

 

白井聡の『永続敗戦論』

終戦記念日という欺瞞

冗談は櫻井よしこさん

「サヨク」と「保守」の自己欺瞞

「主権の欲求不満」の解消

 

第三章 「正義」を笠に着る人たち

 

ウクライナ首都の名称変更は「正義」なのか?

「人間は見たいものしか見ない」

社会的リンチというB層の「正義」

人種問題における「正義」の暴走

「ルッキズム」批判は「正義」なのか?

言葉狩りは「正義」なのか?

若年層に選挙権を与えるのは「正義」なのか?

山本太郎と「正義感」について

 

第四章 陰謀論に走る人たち

 

「無知の知」と「無恥の恥」

不道徳としか言えない果物屋

「維新に殺される」

新型コロナは「バカ発見器」でもあった

ひっくり返って駄々をこねる老人たち

Yahoo!ニュースのコメント欄

知識はあるけど教養がないバカ

デマは言論の自由にあらず

社会の変化は元には戻らない

99%の人が知らない話

 

第五章 無責任な人たち

 

安倍の次は維新に騙されるB層

メディアの劣化が止まらない

大阪都構想のデマと事実隠蔽

総選挙で湧いてきたB層

 

第六章 恥知らずな人たち

 

飼い犬の遠吠え

安倍晋三の本質を映し出す一枚

ツッコミ待ち政治家だらけの国

日本の崩壊に気づいていないB層

日本最大の権力者は「改革バカ」

「ジューシー」発言は外部の拒絶

悪意なく嘘を重ねる人々

カルト化した自民党広報本部

百田尚樹の「歴史改ざんファンタジー」

日本人は悪に屈したネトウヨ用語を使い騒ぎ出した元首相

 

おわりに−−人間は過去を忘れ野蛮は繰り返される

 

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オススメ記事

適菜 収

てきな おさむ

1975年山梨県生まれ。作家。ニーチェの代表作『アンチクリスト』を現代語にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』、『小林秀雄の警告 近代はなぜ暴走したのか?」(以上、講談社+α新書)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(講談社)、中野剛志との共著『思想の免疫力 賢者はいかにして危機を乗り越えたか』、『遅読術』、『安倍でもわかる政治思想入門』、『日本をダメにした新B層の研究』(KKベストセラーズ)、『ニッポンを蝕む全体主義』『安倍晋三の正体』(祥伝社新書)など著書50冊以上。「適菜収のメールマガジン」も好評。https://foomii.com/00171

 

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