Scene.35 本屋は夢のなかぁ~!
高円寺文庫センター物語㉟
晴れ男の面目躍如で、これまでのビッグイベントは傘が躍った記憶はない。晴れたり曇ったり小雨が降ったりと、目まぐるしい陽気に気分まで落ち着かない。
そんな時には、日常のルーティンを踏襲するに限る。と、ランチを済ませて読書タイムは時が止まったままの喫茶店「ネルケン」に向かう。
アーケードのあるPAL商店街を抜けて、ネルケンまでは雨に濡れてもいいや。チャボさんの握手会を控えて、気分はもう映画『明日に向って撃て!』のテーマ曲『雨にぬれても』じゃないか。
花の金曜日のせいなのか、ネルケンの店内は空いていた。定席で読みかけの本の世界に入って行くのに、紐解いたのはベルンハルト・シュリンクの『朗読者』。
自分の身の回りに起きることの方が刺激的で、有体な日本の現代文学は読めなくなっていた。この小説は、ナチスの戦争犯罪に加担した女性と、偶然知り合って関係を結ぶことになる少年の物語として構成が巧みで読み始めてしまった。
っと、マナーモードの携帯が躍り非日常の静謐は破られた。
「店長。
平凡社の吉川さんが、お見えになりました。そろそろ、店に戻って下さい」
「早かったですね、吉川さん!
この度は、ありがとうございます。今日は、よろしくお願いしますね」
「こちらこそです。
文庫センターさんは、ビッグイベントに慣れていらっしゃると思うんですが、ボクらが不慣れなので早めに来てしまいました」
そうこうしているうちに、助っ人の版元さんや元バイトくんらも集まりだした。店内にも、握手会参加のお客さんが散見されるようになったので、清志郎さん握手会同様の体制にかかる指示を出すことにした。
「店長。
清志郎から聞いたよ。ゴキゲンな本屋なんだってね」
チャボこと、仲井戸麗市さん。やっぱり、カッコよかった!
「店長。
チャボって、気難しいひとって聞いていたから緊張してたけど、ぜぇんぜん気さくでまた心撃たれちゃった!
清志郎さんといい、大物は傲りがちっともないね。チャボは、ずぅっと好きなミュージシャンだったから、ますます人としても好きになっちゃった!」
「りえ蔵。小声でボクに言わなくてもさ、チャボさんに直接言えば!」
「それにね。
緊張しているお客さんも、ナイスなの。みんな大の大人、男の人が多いのに緊張しちゃってチャボのギターだけじゃなくてさ、チャボそのものを愛している感じなのよね」
「男の人が多いからって訳でもないと思うんだけど、清志郎さんの握手会とは違った、この静かな空間は却ってエキサイティングだよな」
「それに店長も見た?
チャボに握手した大の大人が『実は、ずっと好きでした』って。思い切った感じで、まるで告白よ!」
「男が男にだよな、なんて微笑ましい」
「お客さんがね。
『自然体のチャボを見られたのは、奇跡です』って、言ってくれたのよ!
ホントに、いい握手会だな・・・・」
「店長、りえちゃん。
チャボに『ボクもバンド、やってるんですよ』って、言ったらさ『イェイ』って、最高やねぇ!」
平凡社新書『ロックの感受性』発売記念の握手会は、静かなる250名ものお客さんと、スタッフにもエキサイティングな感動を残して終わった。
改めて、この本なら文庫センターだろうと連絡を下さった平凡社のみなさんに感謝です。
そして、RCサクセションは永遠に!
Scene.35 本屋は夢のなかぁ~!
「店長。魚民でゲゲゲの呑み会って、珍しくないですか」