【紛争取材の経験が通用しない地・ウクライナ】報道カメラマン・横田徹が見た最前線の姿とは!?《前編》 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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【紛争取材の経験が通用しない地・ウクライナ】報道カメラマン・横田徹が見た最前線の姿とは!?《前編》


戦火の燃え上がる所、そこには必ずジャーナリストの姿がある。スクープを狙うため、戦争の悲惨さを世に伝えるため、民間人犠牲者や難民の声を届けるためーー。

彼らが戦地に赴く目的はさまざまだが、『戦争中毒 撮りにいかずにいられない』の著者であり、紛争取材で豊富な経験を持つ報道カメラマン・横田徹氏のスタンスは至ってシンプルだ。戦地の最も危険な場所に行き、カメラに収めたものをそのまま伝える。現地の人々と同様に命を失うリスクを自身も負い、そこにいる人々の息遣いや心の内に迫る。

このような無謀とも言えるポリシーを抱き、横田氏はカンボジア内戦を皮切りにイラクやシリア、リビアなど90年代後半以降に起きた紛争・戦争の多くを取材してきた。そんな横田氏がどうしたことか、このたびのロシア・ウクライナ戦争では当初、動こうとしなかった。

「なぜウクライナに横田徹がいないのか?」

戦争報道に注目してきた方なら、きっと不思議に思ったはず。横田氏を個人的に知る筆者もまた、解せなかった。ところがある日ネットニュースを見ていたところ、目に入ってきたのはジョージア人義勇兵とともにウクライナの最前線に立つ横田氏の姿。WWⅡ後の欧州で起きた最大の戦争、その戦いの最前線に、ついに日本を代表する戦場取材のスペシャリストが入ったのである。

ベストタイムズでは今回、稀代の戦争アディクトである横田氏に長編インタビューを敢行。その目に映ったロシア・ウクライナ戦争の実態について、シリアスな内容から戦場のムダ話まで忌憚なく語ってもらうことにした。


写真:横田徹/NSBT Japan

 

■戦場取材にはカネがかかる!

 

ーー今回、横田さんが開戦当初に現地入りしなかった理由は何でしょうか? 

「正直言って最初は全く行くつもりがなかったんですね。新型コロナのせいで海外取材に2年以上のブランクがあって、腰が重かったというのがまずあります。空港までのリムジンバスにしても、いつも使っている路線が運行していないので、もう成田に行くのもおっくうといった感じで。それに日本人ジャーナリストもかなりの人数が現地入りしていることもあって、だったら自分は別にいいかなと思っていたわけです。

 ただ、報道を見ていて、『何でみんな最前線に行かないんだろう』という思いはあったんですね。AP通信など欧米のプレスの中にはウクライナ東部の危険な所で撮っているチームもいるのに、自分だったら真っ先に戦闘の現場に駆けつけるのに……とモヤモヤしていたわけですが、結局踏ん切りがつかなかったのはお金の問題があったせいです」

ーー戦場取材にはかなりの経費がかかるということですか?

「もちろん結構な額がかかるんですが、カネを使ったからといって必ず撮れるとも限らない。フリーのカメラマンからしたら完全にバクチなわけです。

 ところが、ある企業の経営者から『君、行かないの?』と声をかけられて、『いやーお金がかかるんで難しいです』と答えたら、だったら協力しますよと1万ドルをポンと出されたんですね。ネット配信の事業をやるのに目玉になる企画が欲しいというのが先方の要望だったんですが、その場で『だったら行きます』と。その代わり何が撮れるか行ってみないと分かりませんよとは伝えました」

ーー即答したわけですね。今回の戦争は危なそうとか、そういう逡巡みたいなものは?

「いや、そもそも考えもしないというか、むしろ頭に浮かんだのはウクライナに行っている間に娘の保育園の送り迎えをどうしようとか。あとは1万ドル出してもらったはいいけれど、なにぶんウクライナは初めてなのでどういうツテをたどろうかとか、そもそもお金足りるんだろうかとか、そういうことでしたね。

 実際、それからすぐに現地のコーディネーターを探したわけなんですが、先方から『ウクライナ東部に行くなら1日1500ドル』と言われまして。これはかなり法外な値段で、たとえばイラクのモスルで激戦地を取材した時に提示されたのが1日800ドル。それでも払えなくて、結局400ドルにまで値切ったんですね。

 ただ、今回の取材は短期決戦と最初から考えていて、命を落とすリスクをできるだけ減らすため、最前線に滞在する時間を最小限にしようと思っていたんです。ウクライナにコネもないし、時間と手間暇をお金で買うしかないと覚悟はしていたので、1500ドルでOKして現地入りしました」

ーーウクライナにはどのくらいの期間、滞在したんでしょうか。

「5月7日に成田を発って、そこからちょうど2週間ですね。ワルシャワを経由してキーウ入りするのが5月9日になるとコーディネーターに伝えたら、『お前、よくそんな時に来るな』と言われました。ちょうどその日、ロシアで対独戦勝記念日の軍事パレードとプーチンの演説が予定されていて、ウクライナではそれに合わせてミサイル攻撃か何かしら危ないことが起きるんじゃないかっていう噂が流れていたらしいんですね」

ーー変わった奴だと思われてしまったと。

「でも、自分に言わせればそのコーディネーターも相当変わった奴で、日本を出発する前に段取りを打ち合わせしていたら『取材に犬を連れていっていいか』って聞かれたんですね。最初は軍用犬だろうと思って別にいいよと返事をしたら、現地に着いて会ってみると単なる飼い犬のドーベルマンで、こいつ何を考えているんだと。

 ただ、犬を連れて行ったのには思わぬメリットもありました。ウクライナ東部の移動では小さな町でも出る時と入る時に必ず検問があって、そのたびに停められてチェックを受けるわけなんですが、いかつい兵士たちも犬を見ると、みんなちょっと優しい気持ちになるんですね」

ーー戦場のアニマルセラピーみたいな感じですか。

「結局、ジョージア部隊に従軍している間もずっと連れていましたね。そんなこともありましたが、そのコーディネーターはジョージア部隊のマムカという司令官の右腕で、コネはしっかり持っているし、コーディネーターとしては大当たりだったんです。

 キーウに到着後、まず義勇兵の訓練場に行ったわけなんですが、彼はちゃんとマムカ司令官に繋いでくれました。もともとその司令官とも日本にいる間にやり取りはしていたのですが、こういう場合にいきなり相手のトップが出てくるなんて普通ありえないので、最初は詐欺じゃないかと思ったほどです。でも、キーウでちゃんと会えて、ああ騙されていなかったと安堵しました。

 そこで単刀直入に従軍取材をしたい、最前線に行きたいと伝えたんですが、危険だし機密の問題もあるから無理だとその場では一度断られたんですよ。ただ、よかったらメシ食っていけ、ここに泊まっていけと非常にウェルカムな印象でした」

ーーそのまま義勇兵たちと兵舎で寝食を共にしたんですか?

「いや、実はそこに着くまでに17時間長距離バスに乗っていて体力的にキツかったのと、あとは兵舎の隣がアゾフ大隊の射撃場でとにかくうるさくて。前線入りしたらいくらでも我慢しますが、経験上ずっと無理していたら身体が持たないと分かっていましたし、誘いを断ってホテルに泊まることにしました。途中、キーウの美しい街並みを見ているので、こういうむさ苦しい場所で寝泊まりじゃなく今のうちに文明に触れておきたい、みたいな気持ちも正直あったんですね。

 ところが、ホテルに着いてみると宿泊客の半分くらいは傭兵で、義勇兵部隊の兵舎と大して変わらなかったという」

ーー束の間の休息を求めてホテルに行ったら、そこも荒くれ者たちの巣だったんですね。

「朝食のビュッフェにはAK47を肩に駆けた男たちが並んでいて、夜はホテルのバーで酔っ払った傭兵が暴れて毎晩喧嘩といった感じでした。

 結局そこには2泊して、これから東部に出発するというタイミングでコーディネーターから証明書みたいなものを手渡されました。マムカ司令官が直々に出してくれたものだったのですが、コーディネーターいわく『これでお前もジョージア部隊だ』と。いや、戦闘員ではなくジャーナリストなのだけどと思いながら、とにかく東に向かいました」

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御堂筋あかり

みどうすじ あかり

ライター

スポーツ新聞記者、出版社勤務を経て現在は中国にて編集・ライターおよび翻訳業を営む。趣味は中国の戦跡巡り。

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