【紛争取材の経験が通用しない地・ウクライナ】報道カメラマン・横田徹が見た最前線の姿とは!?《前編》 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

【紛争取材の経験が通用しない地・ウクライナ】報道カメラマン・横田徹が見た最前線の姿とは!?《前編》

写真:横田徹/NSBT Japan

 

■ウクライナの戦場で感じたカオス

 

ーー従軍取材を最初は司令官に断られたとのことですが、それが一転OKになったのは何故ですか?

「正直、理由は分かりませんが、ウクライナ中部のドニプロという都市に着いたらマムカ司令官が先回りしていて、従軍取材も前線行きも問題ないと言われました。

 そうして紹介されたのがジョージア人の特殊部隊なのですが、実際に彼らと合流すると確かに最精鋭の兵士ばかりで、まず持っている兵器がジャベリンにスティンガー、自動小銃もミリタリーに詳しい人なら一発で分かる1丁100万円とかする最新鋭のもの。中にはジョージア軍のスペツナズに所属していた兵士もいて、士気も練度も高かったです」

ーーホテルの酒場でロクでもない傭兵を見ていたので意外だった?

「ジョージアは2008年にロシアと戦っているので、やはりモチベーションが違うのだろうなと思いました。マムカ司令官も言っていましたが開戦後、世界から集まった義勇兵には全く使い物にならない人とか、おかしい人も相当数いて、その相手をするのに困ったそうです。もちろん実際に戦闘が始まると銃も握ったことがない志願者は脱落しますので、自分が行った頃はだいぶマシになっていたのかもしれません。

 あとこれは現地で連絡を取っていた日本人義勇兵に聞いた話なんですが、彼が言うにはAV男優で最近まで腰を酷使していたという義勇兵志望の日本人もいたそうです。来てあっという間にどこかへいなくなったそうですが。他にもアメリカ人で特攻野郎Aチームみたいなノリの義勇兵もいて、ジョージア部隊を取材した後にどこで聞きつけたのか『ジョージア部隊に俺たちを紹介してくれ!』と履歴書付きで連絡がありまして、怪しそうだったので無視しました。

ーーと言うか、1日1500ドルだと1万ドルの経費では1週間持たないと思うのですが、どうやって2週間もの間、現地取材をしたのでしょうか。あと、コーディネーター費は日払いだったんですか?

「現地に着いてしばらくして、これは1万ドルでは足りないって話になり、資金を提供してくれた人に連絡したんです。そうしたら『最初から予算は200万円はかかると見ていました』と言ってくださいました」

ーーこれでまだ取材ができるぞと。

「ただ、コーディネーター費は最後にまとめて支払う話だったんですが、なぜか残金がネット決裁できなくて、まだ全額は渡せていないんですよ」

ーーということは、従軍取材中も懐に1万ドルを抱えていたということ?

「持ってましたね。流れ弾に当たって死んでたら間違いなくロシア兵に死体を漁られて、お宝発見ってなっていたと思います。実際、日本でも報道されていますが略奪は普通に行われていましたしね。

 ロシア兵の中には貧しい地域の出身者がかなりの数いて、彼らは金目のものとか電化製品だけじゃなく、便器の便座まで持っていったんですよ。ウクライナ人からしたら『何であいつらは便座なんか略奪するんだ!』と理解不能なわけですが、自分は以前シベリアに狩猟に行ったことがあって、そう言えば確かにトイレは地面に穴を空けて、板を渡しただけだったなと思い出し、腑に落ちるところがありました」

ーー文明国対非文明国の戦いといった趣きがあった?

「少なくとも自分が訪れたシベリアの経験から言うと、ロシアは今まで行ったどの国よりも危ないというか強烈でした。気温はマイナス40度とかで一面氷の世界、あるものといえば暴力と絶望、そして酒。こんなところが地球上にあるのかといった印象です。ウクライナ人がロシア人のことをバカにして『どうせあいつらはイモとウォッカさえあれば幸せなんだ』みたいなことを言っているのを聞いたのですが、確かにシベリアはそんな感じだったなと。モスクワとか都市部はまた違うとは思いますが。

 とにかくロシアでは、酒を飲まないと何も物事が進まないんですよ。狩猟なのにまず飲まされて、さあ撃てと銃を渡されるんですが、ベロベロだから照準も定まらない。酔っ払って寝落ちして、起きたらまた飲まされての繰り返しで、その間に鹿の生レバーを食わされたり、銃を撃ったりっていう記憶が断片的に残っているけれど、基本ずっと酔っ払っているわけです。

 しかもメシが本当にまずくて、せめてボルシチくらいは食えるだろうと思ったらどこの店でもひどい味なんですね。それに比べるとウクライナというのは、戦時中にも関わらず食事が絶品なんです。農家直送のファーマーズショップなんかはそれこそ伊勢丹のチーズ売り場のクオリティで、しかも安い。自分の舌に合うという意味では、ウクライナの食事は人生でベスト3に入るうまさでした」

ーー最近、ボルシチがウクライナ料理として無形文化遺産に登録されましたが、それもうなずけるといった感じでしょうか。

「ボルシチというのは日本でいう味噌汁みたいなもので、どちらの料理とか以前にとにかくウクライナの方がおいしいというのが自分の感じたことです。というか、ボルシチ以外にもウクライナにはうまいものがいくらでもあるぞと。自分はこれまでアラブ世界での取材が多く、現地料理で豚肉を食べる機会が少なかったのですが、ウクライナではハムとかソーセージを心ゆくまで味わいました。

 そういう意味では、こういうことを言うと誤解を招くかもしれませんが、久々の海外を堪能した部分はあります。もっとも、戦場取材で常に命の危険があったことに変わりはなく、現地ではロシアによる残虐行為や非戦闘員への攻撃などが行われてました。極度の緊張を強いられ、混沌とした状況の中で思わずグルメに感動してしまったのは、今考えれば自分が『戦争ハイ』になっていたせいかもしれません」

(後編につづく・・・)

 

〈報道カメラマン〉

横田徹(よこた・とおる)

1971年生まれ。97年のカンボジア内戦に始まり、東ティモール独立戦争やコソボ紛争、アフガニスタン紛争からイラク戦争に至るまで、世界各地で数々の紛争・戦争取材に携わってきた歴戦の報道カメラマン。著書に『戦場中毒 撮りに行かずにいられない』(文藝春秋)がある。現在は「子育てが自分の戦場」と語る、子煩悩な一児の父。

 

〈聞き手・文〉

御堂筋あかり(みどうすじ・あかり)

スポーツ新聞記者、出版社勤務を経て現在は中国にて編集・ライターおよび翻訳業を営む。趣味は中国の戦跡巡り。

KEYWORDS:

オススメ記事

御堂筋あかり

みどうすじ あかり

ライター

スポーツ新聞記者、出版社勤務を経て現在は中国にて編集・ライターおよび翻訳業を営む。趣味は中国の戦跡巡り。

この著者の記事一覧

RELATED BOOKS -関連書籍-

戦場中毒 撮りに行かずにいられない
戦場中毒 撮りに行かずにいられない
  • 横田 徹
  • 2015.10.30
GUNNER SP アフガニスタン最前線レポート (GUNNER)
GUNNER SP アフガニスタン最前線レポート (GUNNER)
  • 2010.06.28