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【紛争取材の経験が通用しない地・ウクライナ】報道カメラマン・横田徹が見た戦争最前線とは!?《後編》


 泥沼化するロシア・ウクライナ戦争。その最中に身を投じ、ジョージア部隊や市民の訓練施設などを取材した報道カメラマンの横田徹氏は、自他ともに認める『戦争中毒』だ。混沌渦巻く戦地の中で、最も危険な場所に身を置き、戦争を肌で感じながら取材することをモットーとする同氏は、果たしてウクライナで何を感じたのか? ここでは《前編》に引き続き、横田氏のインタビューをお届けする。


写真:横田徹/NSBT Japan

 

■アラブ世界での経験が通用しないウクライナ

 

ーー横田さんはこれまでにイラクやシリアなどで数々の紛争を取材し、イスラム国が首都としていたラッカ入りの経験も持つ世界でも数少ない報道カメラマンの一人です。いわばアラブ世界を熟知したジャーナリストであるわけですが、その経験はウクライナでも生かされましたか?

「生かされるどころか、アラブ地域での経験がウクライナでは通用しないことがあり、最初は戸惑いました。

 まず、過去に取材したアフガニスタン、イラクといった地域でも従軍取材は何度もしましたが、敵対勢力は武装組織や軍閥、ゲリラなどで、相手が重火器や航空戦力などを持っているケースはまれでした。ところがロシア・ウクライナ戦争の場合、正規軍同士によるがっぷり四つの戦いで、危険度が全く違います。

 アラブ世界での紛争では長年の経験で身に付けた『ここにいれば安全、でもここから先は危ない』といった戦場勘があるので、リスクを自分なりにコントロールできていたんです。でも、ウクライナでは国中どこでもミサイル攻撃を受ける可能性があり、しかもロシア軍は民間施設も容赦なく攻撃しますから、心の休まるヒマがない」

ーーやはりロシア軍は強いですか?

「油断できない相手だと思います。チェチェンなどで取材経験のあるジャーナリストの常岡浩介さんが『ロシアはどん底に落ちてから力を発揮する』といったことを話していましたが、いま実際にボロボロの状態と言われながらも占領地をじわりじわりと広げているのを見る限り、確かにそうだなと。

 また、ロシアが古い兵器を使っているという話もよく言われます。だからといって弱いかというとそうではなく、私がこれまでに取材したアラブ世界での紛争ではたいがいロシア製の兵器が使われていて、壊れにくくて古くても何となく使えてしまうスグレモノなんですね。

 むしろウクライナ側はソ連時代からのものと今入ってきている西側の兵器体系がごっちゃになっていて、大砲はあっても砲弾がないとか規格が合わないといった事態が起きていると想像されます。そこはウクライナ軍の厳しいところだと思います」

ーーアラブとウクライナの違いで、逆にいい面もあるのでしょうか?

「まず、ウクライナの人々は話がちゃんと通じるというのは感じましたね。ソマリアやアフガニスタン、そして米国(特に南部)などで取材をしていると、通訳が間に入っていても全く会話が成立しないことがあるんです。考え方が根本から違いすぎて、まるで宇宙人と話しているような感じです。それに比べるとウクライナでは、どこで誰と話しても普通にコミュニケーションが取れるので、『ああ、ここは異次元ではなく同じ惑星だ、地球なんだ』と思ったりしました。

 そもそもウクライナというのは都市部の街並みが古き良き時代のヨーロッパそのもので、道もきちんと舗装されています。また、地方に行っても荒れ地とかではなく畑にしっかり人の手が入っていて、人間の営みが感じられるというか、実に美しいんですね。これまでの取材といったらジャングルとか砂漠とか、廃墟ばっかりだったので、新鮮な体験ではありました」

ーー逆に言うと、ロシアの侵攻によりそんな文明的な土地が戦場に変わってしまったわけですね。

「そうですね。ただ、戦争中といってもウクライナは国家がちゃんと機能していて、秩序があるんです。そのせいか、戦場取材でもアラブ世界では考えられないような細かいことまでいろいろ言われました。たとえば防弾ベストなら、必ずレベル4以上の防弾プレートを入れたものでないとダメだとか」

ーーアラブの紛争地取材ではそういう細かさがない?

「と言うか、国家とか軍隊がマトモに機能していないところの方が多かったんですね。アラブというのは本当に適当で、もちろんヘルメットとか防弾ベストは必須なんですが、細かくチェックされなかったり、なくても何となく済んでしまったりということがありました。その場のノリとかコーディネーターのコネで、普通ならありえないことが可能になったり、当たり前のことがNGになったりするのがアラブ世界の不思議なところです。ただ、そんなアラブとウクライナのギャップもしばらくしたら慣れました」

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御堂筋あかり

みどうすじ あかり

ライター

スポーツ新聞記者、出版社勤務を経て現在は中国にて編集・ライターおよび翻訳業を営む。趣味は中国の戦跡巡り。

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