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【紛争取材の経験が通用しない地・ウクライナ】報道カメラマン・横田徹が見た戦争最前線とは!?《後編》

写真:横田徹/NSBT Japan

■横田氏が考える戦争報道のあるべき姿とは

 

ーーウクライナ人の怒りというのは、当然ながら激しいわけですね。ただ、横田さん自身は著書の『戦場中毒 撮りに行かずにいられない』を拝読する限り、今回なら「ロシア憎し」「彼らの蛮行を糾弾したい」とかそういうメンタリティーで取材するわけではなさそうですが。

「そうですね。もちろんロシアによる民間施設への攻撃で、本来死ぬ必要がない人々が死んだりするのを許せないと思う気持ちはありますし、ウクライナ人の憤りは十分理解できます。だからといってウクライナ頑張れとか、そういうスタンスではないです。

 私自身、シベリアでの体験を通じて『ロシアはある意味イスラム国以上にやばい』とは思いましたが、そもそも日本で普段乗っているのはラーダというロシア車ですし、あの国が嫌いなわけではないんです。それ以前に、戦場取材は好き嫌いでやるものではないというのが私の考えです。ロシアとウクライナでどっちが悪いのかとか、そういうことを私が判断するために取材をしているわけではないんですね。

 私自身が撮ったものにしても、戦争の全体図ではなくあくまで一つの視点に過ぎませんが、それでも戦場で起きていることを自分なりにできる限り、現地の空気感などを含めてそのまま伝えたい。そして、どう受け止めるかは見る人に委ねたいんです。

 何が戦争報道のあるべき姿かということは、私には一概に言えません。自分の場合、危険なところに行くのが最も戦争をリアルに伝える方法だと思っていますが、市民や避難民の取材など、戦地でのあらゆる取材にはそれぞれに価値があります。ただ、役割分担として自分は最前線に行く係、そういう風に考えています」

ーーそれって命を落とす危険が最も大きい損な役回りとも言えますよね。

「自分でも分かっているのですが、結局行ってしまうんですね。

 私はもともと戦争に対して一切ロマンや幻想を持っていなくて、国の許可を得て行う合法的な殺人というか、醜悪極まりないことだけど人間が繰り返し起こしてしまうものといったイメージでしかありません。

 子どもの頃、身内や教師にはまだ日中戦争や太平洋戦争帰りの人が普通にいた時代でしたから、戦地での体験をよく聞かされたんですよ。元日本兵の武勇伝というわけですが、幼心に聞いていても本当にひどいなと思ったんですね。

 本人は全く悪気なく、むしろ自慢話みたいに語っていて、しかも戦争に負けているのに何なんだと。捕虜を並ばせて小銃で撃って何人貫通したとか、ろくでもない話です。

 そこでトラウマを覚えつつも、戦争に関心がわいてしまった。なぜ人間はそんなことをしでかすのか、本物の戦場では一体どんなことが行われているのか。これを知るためには戦いの最前線に行くしかないということで、戦場取材が私のライフワークになってしまいました。

 メディアを通じての情報や、遠く離れた場所で見聞きした情報だけでは戦争の本質には近づけません。ただ、自分の場合は近づいて行けば行くほど、戦争とは世の中からなくならないものだという思いが深まるばかりです」

 

〈了〉

 

〈報道カメラマン〉

横田徹(よこた・とおる)

1971年生まれ。97年のカンボジア内戦に始まり、東ティモール独立戦争やコソボ紛争、アフガニスタン紛争からイラク戦争に至るまで、世界各地で数々の紛争・戦争取材に携わってきた歴戦の報道カメラマン。著書に『戦場中毒 撮りに行かずにいられない』(文藝春秋)がある。現在は「子育てが自分の戦場」と語る、子煩悩な一児の父。

 

〈聞き手・文〉

御堂筋あかり(みどうすじ・あかり)

スポーツ新聞記者、出版社勤務を経て現在は中国にて編集・ライターおよび翻訳業を営む。趣味は中国の戦跡巡り。

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