名経営者は「引き際」を見極める『社長になれる人、なれない人』
「社長になれる人、なれない人」(9)
経営コンサルタントの大先輩の一倉定先生が、「会社には良い会社、悪い会社はない。良い社長、悪い社長しかない」とおっしゃっています。
けだし名言だと思います。実際、社長次第で会社の経営は100%決まってしまう、といっても過言ではありません。これは中小企業だけでなく、東芝の例を見るまでもなく、大企業でも当てはまることです。経営者によって、会社は決まるのです。
一方、創業経営者にとっては、中小零細企業から中堅企業へ、中堅企業から大企業へと順調に成長していくのが理想ですが、世の中そうは甘くありません。それなりの規模に成長した企業が足踏みしてしまい、そこから脱皮できないということがよくあります。
ピーター・ドラッカー氏はその理由として、①キャッシュフローより利益を重視する②マネジメントチームの欠如③経営者が自分の立ち位置を見失ってしまう――という3点を挙げています。
会社の成長を阻む社長の「3つの勘違い」
企業の力の源泉は売上高でも利益でもなく、「キャッシュフロー」です。キャッシュフローは、利益とは似て非なるものです。利益は帳簿上の儲けを指しますが、キャッシュは実際に企業へ入ってきたおカネです。売上げが出ても回収しない限りキャッシュとはなりません。
「黒字倒産」という言葉を聞いたことがあると思います。
企業を経営していると、事業拡大のために事前に在庫を保有したり、原材料を買い付けたりするために運転資金が必要になります。投資も必要です。商品やサービスを提供して利益を上げたとしても、資金回収までに一定の期間がかかります。しかし、資金の支払いと回収との間にタイムラグが生じた場合、資金繰りが上手くいかないと、帳簿上は黒字でも支払いができずに倒産することがあるのです。企業の命運を握るという意味で、キャッシュフローは何よりも重要なのです。
しかし、企業もそれなりの規模に成長して、JASDAQ(ジャスダック)などに上場すると、株価や株主への影響を考えて利益を出さなければいけません。利益とは、会計上の概念です。キャッシュでしか給与も払えませんし、設備投資もできません。もちろん、返済もキャッシュベースです。いくら帳簿上は黒字でも、手元にキャッシュがなければ会社は潰れてしまうのです。
一方、中小企業では、経営のマネジメントは社長自身が行うケースが多いのですが、売上高が100億円を超えるような規模になってくると、どうしてもマネジメントチームが必要になってきます。
しかし、創業社長はワンマン気質が抜け切れず、この規模の段階になってもマネジメントチームが育っていないことが少なくありません。ある程度の規模になった組織を末端まで社長が1人で動かすことは現実的に不可能です。それに、社長が自分の息のかかった人間だけで経営しようとしても、組織は十分には動きません。人材を外にも求めることが必要になってきます。
最後に「社長の引き際」の話をします。創業経営者やカリスマ経営者は会社を大きくした人ですから、社内で自分の重要性は十分に認められていますし、それが永久に続くと思いたいものです。会社を大きくしたという自信がそうさせるのでしょうが、自身の年齢や会社の今後のことを考えれば、後継者に経営を譲り、自分が徐々に「フェードアウト」することも、ある時期には大切になってきます。
その時、会社にとってベストな選択は、実は自分が退くことである場合も少なくないのです。経営者が組織全体ではなく、自分中心に物事を考え始めると、会社はおかしくなってしまいます。私は多くの経営者を見てきましたが、自身の引き際を決めるのはとても難しいものです。
これらの社長の勘違いが、会社の成長を阻みます。社長を目指そうというのなら、今のうちから肝に銘じておくべきです。
(『社長になれる人、なれない人』小宮一慶・著より構成)