Scene.37 本屋は、どこまでも熱い!
高円寺文庫センター物語㊲
「店長。どうなの、最近のお店は?
ちょっと吉祥寺に用があったから、ついでと途中下車して寄ってみたんだけど」
「わ!
ありがとうございます。社長」
某出版書店業界紙で、編集長を勤めていた大先輩が来られた。気にかけてくれていたのを、ついでなんて言うウソが、粋だ。
「データから見ても、書籍と雑誌の売上げ減は出版・書店業界史上ないほどの有り様だよ。これで、街角書店が生き残るのは至難の業と思うけどね」
「高円寺は大きな土地がないので、ナショナル・チェーンの出店が不可能なのが幸いなんですが、それ以前に個人消費の落ち込みですよ。
バブルが弾けても、数年はまだ領収書が一日で無くなる状態だったんですけどね。いまは、娯楽としても雑誌を買わない、パソコンで資料収集もできるじゃないですか」
「本屋の労働組合も、軒並み落ち込んでいるようだね」
「はい、力不足で残念です!
本屋の労働組合の集合体だった、全国書店労働者・労働組合連絡協議会も先が見えなくなってきました」
「頑張れているのは、吉祥寺が本部の弘栄堂書店労働組合くらいか?!
弘栄堂書店が始めたブックフェアは、この国初にして思惟的なフェアの快挙だったな」
「すべてにわたって本屋の現場でご苦労された方々は、個人的な記憶に残りこそすれマスメディアによって記録されることはないのが残念です。
アナログな時代に単品管理を試みた、池袋の芳林堂書店の方々は取次からの過剰送品による、返品の負担の軽減を考えていたんですよ。
弘栄堂書店のみなさんが始めた、ブックフェアには驚きました。なぜシュールレアリズムの本を集めて販売するのかという、独自に作った小冊子をフェアの傍らで無料配布していましたからね!」
「いまや換骨奪胎。売れりゃいいと、集めて並べるだけだから客に響くものがない。だから客の方も、買えりゃいんだからとアマゾンに行っちゃうのよな」
「中小零細の書店労働者は自分の賃金労働条件どころか、本好き故に本の世界の将来を考えて行動していたのに、絶望感しか持たせない業界って先行きないなって思いますよ」
「書泉の争議を10ン年も戦い抜いた経験があっても、絶望感とか言うんだから相当だな。
ボクも社長職に区切りをつけて、この業界におさらばする計画を立て始めたよ」
Scene.37 本屋は、どこまでも熱い!
今月のゲゲゲの呑み会は、がんじゅう屋。8月末は、高円寺阿波踊りとかち合うので観客席メインスタンド直近の店にした。
39名にまで膨れ上がり、ほぼ貸切りにしないとならないほど、みなさんが来てくれた。
「店長。参りましたよ!
ホームに降りてから、駅前なのに辿り着くのが大変でした」
「だってさ、踊り手で1万人。観客が100万人とか言ってるんだもん」
「店長、お疲れ様です!
今年は猛暑なのに、これじゃ高円寺の夜はさらに暑いですね!」
「見物客も、本屋は素通りなの!
いま頃は文庫センターがらがらで、まったく売れなくなる厄日なんだけどね」
「店長、ご無沙汰しています。
先日、初めて焼き鳥大将に行きましたよ。ゲゲゲの呑み会、発祥の店と聞きましたから。スタッフの方が言っていたティナって、ママさんのことでしょ?!」
「わかるでしょ。ヘアスタイルから、ティナ・ターナーって」
「焼き鳥屋なのに、壁にライオンとか猛獣の写真パネルが凄いじゃないですか」
「そうなの、ママさんがアフリカ旅行で撮ったのをうちで現像してんのよ!
焼き鳥屋なのに、日本野鳥の会会員って気がついた?!」
「店長、おひさ・・・・そのギャグ、何度目っすか。
もう50も越したんでしょ。相変わらず、歳取らない感じっすね」
「歳取らない?! 『ブリキの太鼓』かも、ギュンター・グラスの小説。
30過ぎの大人は信じないって生きてた、20代のままで精神年齢を止めてしまったかもね」
「店長。
わたし、こないだのWサイン会に来たんですよ。おおひなたごうさんの『さらば俺に血まなこ』と、田中圭一さんの『神罰』。
猛暑なのに、よっく田中圭一さんは、着ぐるみ着てサイン会って凄かったですよ!」
「だろ、犬ちゃん。
高円寺ってさ、熱過ぎて脳みそも溶けちゃうよね!」