Scene.37 本屋は、どこまでも熱い!
高円寺文庫センター物語㊲
「店長。なんば、アタマ抱えっちょると?!」
「どぎゃんも、こぎゃんも!
岩波書店の夏目漱石全集な。定期購読のお客さんが、二人も取りに来んけん電話したけんが、お二人とも亡くなっとったばい!
岩波の本は買切りで返品できんと、しかも2冊ね・・・・」
「店長、内山さん。どもども」
「あれ、タツロクさん。こんな平日の昼間に・・・・あ、代休ね?!」
「当たり!
映画、観てきましたよ。
店長、おススメの『ウィンドトーカーズ』ハリウッド製戦争映画、ネイティブアメリカンのナバホ族を初めて内なるものとして描いた。ただし、監督は中国人のジョン・ウーだったけど。
白人至上主義で勧善懲悪、西部開拓時代のインディアンをなぎ倒すようにドイツ兵や日本兵をバッタバッタの時代は過ぎ去ったって映画ですね。
ようやく黒人兵も描くようになって、残るはナバホ語なら暗号解読されまいと最前線で酷使される棄民がテーマ。それだけでも、少しは評価できる作品ですよ。
在米日本人・日系アメリカンを戦闘部隊は欧州へ、太平洋戦域へは情報部員として獅子身中の虫を駆使したアメリカを深く考えさせてくれる作品でした。
『哲学する』行為は、どんなことであれ己が知力次第と、考えていましたよ。本を読み尽したサイパン戦、映画は突っ込みどころが多過ぎて!
サイパン・グアムが戦場だったなんて、知らない若いのも多いんでしょうね」
「日本がアメリカと戦争したのを、知らない若いのがいるらしいじゃん」
「チャラいアイドルが戦争映画に出れば、若いのが観に行くじゃないですか。それで少しは戦争を知るきっかけになるかもですよ」
「タツロクさん、忘れるとこだった!
スピルバーグとトム・ハンクスが組んだ『バンド・オブ・ブラザーズ』ね。やっぱ、先に原作読んでからの映像をススメますわ」
「この夏は猛暑だったから、残暑も長いな。中旬になってもって、13日か今日は?!」
「そうですよ。13日の金曜日、とか言ってもうちは仏教徒ですけどね。
店長。なんかアポでも、思い出したんですか?」
「あぽ言ってんじゃないの、クロ!
今日はな、おいちゃんのパクられ記念日」
「なんすか、その俵万智のパクりみたいの?」
「30ン年前の今日。在日中国人女性が、不当に入国管理令違反に問われたことに抗議のデモに参加して逮捕されたのよ」
「ゲゲゲ、店長は前科者ですか?!」
「知らねぇな・・・・前科は、起訴されて有罪判決が確定してからなの!
機動隊とドンパチやった武勇伝じゃなくて、一度でも逮捕されて留置場に入ると自由と国家が身をもってわかるぞって言いたいの!
憲法で保障された行為をしただけでも、権力者は恣意的に弾圧して逮捕拘留するんだからな。
一度パクられて、三泊四日でも経験してみろよ。自由に喋れない、自由に動けない、時間まで自由にできない。個人の自由とは何かを考えられるぞ!」
「嫌ですよ、そんなの」