Scene.38 本屋はときに艶っぽい!
高円寺文庫センター物語㊳
緊張しています。目黒駅を出てからは、ロボットのような歩き方になっています。片手には花束、片手には手土産を持って、教えられたとおりに奈緒さまのマンションを目指して歩いております。
弱ったな、参ったな。まさか、ご自宅にお呼ばれするなんて思ってもいなかった。少しでも緊張感を和らげてからお伺いしようと、東京都美術館でJOHNの命日の翌日に『THE BEATLES展』に浸っておいた。
手作りの夕食をご馳走しますって、その後が・・・・
「いらっしゃい、よく来てくださいました!
まだ暑いから汗かいてらして、シャワー浴びませんか?」
「え! いきなり、まずいですよ・・・・」
ドンドンドンドン!
「姐さん、いらっしゃいますか! 兄貴が、お勤め終えてお帰りですよ!」
「あら! 今日だったの!
マズいわ。店長さん、服を持ってベランダから逃げて!」
ゲゲゲ・・・・歩きながらの夢想か。よかった、大人しく紳士的にとの妖怪からのアドバイスと心した。
「いらっしゃい、よく来てくださいました。
店長のお願い通りに、露出の少ない服を探したらこれしかないの。服役中の彼に接見する時に着る地味目のお洋服なのよ」
ゲゲゲ! 正夢なの、しかもJOHNの命日の翌日だからって、窓の下には墓地が広がっているじゃない。
「白金か目黒に出て夕食とも思ったんだけど、今夜はすべて手料理でおもてなしをしたかったの。
プロモーションでお邪魔した時に、お渡し忘れた販促用のポストカードをお持ち帰りくださいね」
ふと見れば2枚は全裸ではないか、ご本人を前にして見る?! 『おい、鬼太郎! じっと我慢の子だぞ!』なんか変だな、混乱してる。
「お料理の間しばらくは、これを観て待っていて下さる?!」
と、デッキに挿入されたビデオは・・・・奈緒さまのAV。
♪幸せでした あの頃は 真っ赤な 港の 彼岸花♪ by 浅川マキ
Scene.38 本屋はときに艶っぽい!
「あっれ、木田さんったら目の前スルーですか? ご機嫌で鼻歌歌いながら『おじいさんの時計』ですか?」
「バカたれ、平井堅の『大きな古時計』だぜ!
そっか、店長世代にはグループサウンズのカバーで『亜麻色の髪の乙女』だろ。ヴィレッジ・ピープルじゃなくて、島谷ひとみの」
「ビレッジ・シンガーズですけどね。なんかご機嫌で、薄気味悪いじゃないですか」
「昨日は、神宮球場で池山引退試合をかぶりつきで観てきちゃったもんな。そしたら今日は雨、ついてたじゃんか!
そうだ。こないだの日曜日に大勢の客が並んでた、カネコアツシ・サイン会ってなんだありゃ?!」
「木田さん、ご存知ないんですか?
文庫センター的には『BAMBi』シリーズが大ヒット、エンターブレインさんのお蔭で『BAMBi 零 alternative』の新刊のサイン会ができたんです!
お客さんも待ち望んでいたみたいで、97人も来てくれたんですよ」
「お、沢田くん。熱いね!
ところで手に持っている雑誌『ユジク』ってなんだ?」
「売れ続けているので、あちらに山積みにしてあります。
阿佐ヶ谷にある出版社ふゅーじょんぷろだくとが出した季刊誌で、『阿佐ヶ谷ラピュタからの中央線的な街へのおもい』と、裏表紙からはページが反転して『60年代の映画 映画の斜陽か? 革命前夜か? 60年代から70年代―大手5社と寺山修司』と、わたしには勉強になる内容で凄いんです。
文庫センターでトークショーをしてくださった、三善里沙子さんがあちこち取材してコメント入れているんです。文庫センターを、コミュニティスペースだと書いてらっしゃいました。
その後に高田渡さんへのインタビューがありまして、ヒット曲『自衛隊に入ろう』の裏話は店長から聞いた話と同じで面白いんです」
「よっしゃ!
そこまで沢田くんにプレゼンされたら、買うしかないな!」